解説

体脂肪低減効果を有するケルセチン配糖体配合飲料の研究開発特定保健用食品「伊右衛門 特茶」の開発

The Research and Development of Quercetin Glucosides-Containing Beverage with Reducing Activity for Body Fat: The Development of Functional Beverage Approved as a Food for Specified Health Uses

Norifumi Tateishi

立石 法史

サントリーホールディングス株式会社

Junichi Nakamura

中村 淳一

サントリーホールディングス株式会社

Yuji Nonaka

野中 裕司

サントリーホールディングス株式会社

Published: 2018-05-20

動脈硬化性疾患は日本人の死因の25%近くを占め,その主たる危険因子である高血圧,糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病の発症には,肥満,特に内臓脂肪蓄積が深く関与していると指摘されている.これらの予防・改善には,適度な運動とバランスの良い食生活が大切であるが,現代社会の多忙な日常生活においては,適切かつ継続的な実践は必ずしも容易ではないため,保健機能食品の効果的な活用は国民の健康の維持・増進への一助となることが期待される.そこでわれわれは,肥満や内臓脂肪蓄積の予防・改善に役立ち,無理なく飲み続けられる日頃慣れ親しんだ茶飲料での特定保健用食品を開発することを目指した.

背景

1. 肥満の現状

厚生労働省の平成26年国民健康・栄養調査報告(1)1) 厚生労働省:平成26年国民健康・栄養調査報告,http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h26-houkoku.pdf, 2014.によると,内臓脂肪蓄積に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が合併し,心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患の危険性を高めるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)(2)2) 一般社団法人日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク管理,一般社団法人日本動脈硬化学会編,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版,2012.が強く疑われる者の比率は,40~74歳の男性で25.5%,女性で9.7%であり,予備群と考えられる者まで含めると男性で49.0%,女性で17.8%を占めることが報告されている.一方,body mass index(BMI)が25.0 kg/m2以上の肥満者の割合は,20~69歳の男性で平成22年の31.2%から平成26年に30.2%へ,40~69歳の女性で平成22年の22.2%から平成26年には22.0%へとやや減少傾向あるいは横ばいの状態にある.「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」(3)3) 健康日本21企画検討会,健康日本21計画策定検討会:21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)について報告書,http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/pdf/all.pdf, 2000.が定める平成34年度の肥満者の割合の目標値は20~69歳の男性で28%,40~69歳の女性で19%であり,本目標に達していない現状の中では今後も継続した取り組みが必要である.このような背景から,肥満者の中でも内臓脂肪が過剰に蓄積した内臓脂肪型肥満や,内臓脂肪蓄積が基盤となりさまざまな生活習慣病と深くかかわっているメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防や改善は,国民の健康寿命延伸において,重要な課題となっている.

2. 肥満コントロールにおける課題

肥満コントロールの手段の一つに薬物療法がある.2015年時点で,日本で販売されている肥満症治療薬にはマジンドール(Mazindol)とセチリスタット(Cetilistat)がある(4)4) 羽田裕亮,山内敏正,門脇 孝:日本内科学会雑誌,104,735 (2015)..前者はアドレナリン再取り込み阻害作用を有し,アドレナリン放出を増強することで,食欲抑制効果を発揮する.本薬物は中枢神経系に働く点からも使用上多くの注意点があり,保険診療上は厳しく制限されている現状がある.後者は膵リパーゼ阻害作用を介しての脂肪吸収抑制がメカニズムであり,その作用点から食直後の服用が効果的とされている.いずれにせよ,日本では承認を受けているのは上述の薬物2種のみであり,薬物による肥満治療はその選択肢が少ない.またその治療対象者は主には高度肥満者であり,日本人の肥満の大部分が該当する軽度肥満のケアには相応しくないケースが多い.また薬物療法であってもその治療方針は,食事療法や運動療法等,非薬物療法を3カ月程度検討し,それでも改善が認められない場合に検討されることからも明らかなように,肥満のコントロールの基本は食事と運動である.つまり,肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善には,適度な運動とバランスの取れた食生活が大切であるが,その一方で現代社会の多忙な日常生活においては,適切かつ継続的な実践は必ずしも容易ではない.

これらのことから,国民の健康の維持・増進,特に肥満のケアにおいては,保健機能食品を効果的に活用することは非常に重要であり,期待される部分は大きい.以上の背景,課題から,これまで体脂肪低減を実現する特定保健用食品の開発が試みられてきた.一方で,われわれが本研究開発に着手した当時の2000年代,関与成分で列記すると,中鎖脂肪酸,コーヒー豆マンノオリゴ糖,茶カテキンしか存在しておらず,特定保健用食品で体脂肪低減を実現しようにも,消費者の選択肢は極めて限られる実態にあった.つまり,肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善には特に食が大事で,かつ,継続的な実践が必要であるにもかかわらず,消費者の環境は,「体脂肪低減向け関連食品が少ない」→「少ない選択肢の中で実践」→「飽きてしまう」→「続けたくても続けられない」環境にあり,新たな商品の市場投入が急務であった.

『脂肪の分解』に着目した体脂肪低減飲料の開発

以上の背景から,われわれは目指す体脂肪低減食品の商品像を,確かな有効性,安心して継続していただける安全な商品,飽きない美味しい味づくり,そして飲用シーンをできるだけ限定しない(いつでも飲める),新たなメカニズムターゲットをもつこと,に定め,商品開発を開始した.

1. 商品コンセプト

肥満を低減すること,それは体脂肪として体に蓄積した脂肪を減らすことにほかならない.蓄積した脂肪を減らすには,脂肪を分解し,燃焼させる必要がある.たとえば,運動が肥満の低減に効果的なのは,運動時に筋肉を動かすために化学エネルギーであるATP(アデノシン3リン酸)を必要とし,そのATPの供給源として主に糖や脂肪が利用されるためである(5)5) 厚生労働省:e-ヘルスネット,情報提供/身体活動・運動/エネルギー代謝の仕組み/有酸素性エネルギー代謝,https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-02-001.html.われわれは,脂肪を減らすプロセスのなかで,特に「脂肪分解」に着目した.脂肪が消費され,熱やATPに変換されるためには,中性脂肪という形で内臓脂肪等に蓄積されている脂肪が分解される必要がある(6)6) D. Langin: Pharmacol. Res., 53, 482 (2006)..本作業仮説に基づき,脂肪分解を活性化する可能性のある素材の探索を始めた.

2. 素材選抜:ケルセチン(Quercetin)とは

上述の要件を充足するような食品成分として,われわれはケルセチン(Quercetin)に着目した(図1a図1■ケルセチン(a)およびケルセチン配糖体(b)).ケルセチンはタマネギやリンゴ,ブロッコリーなどの野菜や果実に含まれるポリフェノール成分であり(7)7) Y. Arai, S. Watanabe, M. Kimura, K. Shimoi, R. Motizuki & N. Kinae: J. Nutr., 130, 2243 (2000).,食経験が豊富で,抗酸化作用(8)8) A. W. Boots, G. R. Haenen & A. Bast: Eur. J. Pharmacol., 585, 325 (2008).をはじめ,抗炎症作用(9)9) J. V. Formica & W. Regelson: Food Chem. Toxicol., 33, 1061 (1995).,血圧低下作用(10)10) Y. Yamamoto & E. Oue: Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 933 (2006).,コレステロール低下作用(11)11) S. Juźwiak, J. Wójcicki, K. Mokrzycki, M. Marchlewicz, M. Białecka, L. Wenda-Rózewicka, B. Gawrońska-Szklarz & M. Droździk: Pharmacol. Rep., 57, 604 (2005). など,多くの生理作用を有することが知られている.本成分の特に個体レベルでの体脂肪に対する影響はあまり明確でなかったが,ラット脂肪組織の初代培養細胞系において,ケルセチンが用量依存的に脂肪分解を促進することが報告されていた(12, 13)12) U. R. Kuppusamy & N. P. Das: Biochem. Pharmacol., 44, 1307 (1992).13) U. R. Kuppusamy & N. P. Das: Biochem. Pharmacol., 47, 521 (1994)..以上,豊富な食経験,脂肪分解促進活性という興味深いメカニズムを有する点,そこから体脂肪低減効果が期待できるという点で,われわれの目指す体脂肪低減飲料の商品像に合致したことから,ケルセチンの体脂肪低減効果の可能性についてさらに詳細な検討を開始した.

図1■ケルセチン(a)およびケルセチン配糖体(b)

3. ケルセチンの脂肪分解作用

先行研究(12, 13)12) U. R. Kuppusamy & N. P. Das: Biochem. Pharmacol., 44, 1307 (1992).13) U. R. Kuppusamy & N. P. Das: Biochem. Pharmacol., 47, 521 (1994).を参考に3T3-L1マウス成熟脂肪細胞を用いてケルセチンの脂肪分解作用について詳細検討した.その結果,アドレナリン存在下,ただしアドレナリン単独ではその作用がない試験条件下でケルセチンは用量依存的な脂肪分解作用,つまり脂肪細胞内に蓄積された中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセロールへと分解することを確認した(14)14) N. Tateishi, K. Egawa, N. Kanzaki, Y. Kitagawa, H. Shibata, Y. Kiso, S. Enomoto, D. Fukuda, R. Nagai & M. Sata: Jpn. Pharmacol. Ther., 37, 123 (2009).図2図2■ケルセチンの脂肪分解促進作用).本検討結果から,ケルセチンは肥満時に溜まった体脂肪を「分解」することで,体脂肪低減効果に寄与する可能性を見いだした.

図2■ケルセチンの脂肪分解促進作用

4. ケルセチン配糖体とは

われわれは最終的に飲料での商品開発を見据え,水溶性に優れるケルセチン配糖体(quercetin glucosides)を用いることとした(図1b).ケルセチン配糖体はマメ科植物であるエンジュに豊富に含まれるルチン(rutin, quercetin rutinoside)を抽出し,食品加工用酵素によりいったんイソクエルシトリン(isoquercitrin, quercetin 3-β-glucoside)に変換し,引き続き,デキストリンの存在下で糖転移酵素を作用させ,グルコースを付加したものである(15)15) T. Akiyama, T. Washino, T. Yamada, T. Koda & T. Maitani: Shokuhin Eiseigaku Zasshi, 41, 54 (1999)..その結果,アグリコンのケルセチンと比較して,ケルセチン配糖体は水溶性が向上し,吸収率が高まることが報告されている(16)16) T. Makino, R. Shimizu, M. Kanemaru, Y. Suzuki, M. Moriwaki & H. Mizukami: Biol. Pharm. Bull., 32, 2034 (2009)..ケルセチン配糖体は腸管吸収過程でグルコース側鎖は外れ,生体に吸収後はケルセチンとして活性を発揮し,またケルセチンと同様の代謝過程を経ることが知られている(17)17) K. Valentová, J. Vrba, M. Bancířová, J. Ulrichová & V. Křen: Food Chem. Toxicol., 68, 267 (2014).

5. ケルセチン配糖体の体脂肪低減効果

以降,ケルセチンの体脂肪低減効果を評価するにあたり,ケルセチン配糖体を用いた.各種効能評価を実施し,ケルセチン配糖体摂取による体脂肪低減効果の可能性が強く示唆されたことから,ヒトでのケルセチン配糖体配合飲料の継続摂取による体脂肪低減効果の確認を行った.

まずケルセチン配糖体を配合(イソクエルシトリンとして110 mg)した1本350 mL容量の清涼飲料についてヒトエネルギー代謝に及ぼす影響を確認し,本飲料の7日間摂取により,運動負荷時の呼吸商の有意な低下および脂質燃焼量の有意な増加が認められた(18)18) M. Yoshimura, A. Maeda, I. Takehara, K. Abe, H. Ohta, Y. Kiso, I. Fukuhara & N. Sakane: Jpn. Pharmacol. Ther., 36, 919 (2008)..その後同飲料を被験飲料とし,肥満者200名を対象とするプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施し,この結果,1日1本12週間継続摂取による体脂肪低減効果が確認された(18)18) M. Yoshimura, A. Maeda, I. Takehara, K. Abe, H. Ohta, Y. Kiso, I. Fukuhara & N. Sakane: Jpn. Pharmacol. Ther., 36, 919 (2008)..さらに追加で実施した24週間継続摂取試験においても体脂肪低減効果が確認された(19)19) M. Yoshimura, A. Maeda, J. Nakamura, Y. Kitagawa, H. Shibata & I. Fukuhara: Jpn. Pharmacol. Ther., 40, 901 (2012)..その後,同成分を同量配合した1本500 mL容量の緑茶飲料を被験飲料として,肥満者200名を対象とした試験を実施し,1日1本12週間の継続摂取による腹部全脂肪面積および内臓脂肪面積の有意な減少を認め,ケルセチン配糖体を配合した緑茶飲料での体脂肪低減効果を検証するに至った(20)20) K. Egawa, M. Yoshimura, N. Kanzaki, J. Nakamura, Y. Kitagawa, H. Shibata & I. Fukuhara: Jpn. Pharmacol. Ther., 40, 495 (2012)..また最新の研究では,カフェインを含まない茶飲料を用いた体脂肪低減効果確認試験も実施しており,同様の結果を得ている(21, 22)21) K. Saito, T. Tanaka, H. Obata, J. Nakamura, N. Fukui & N. Tonozuka: Jpn. Pharmacol. Ther., 43, 181 (2015).22) Y. Yasutake, H. Hori, Y. Kitagawa & H. Sugimura: Jpn. Pharmacol. Ther., 43, 389 (2015).

6. 安全性および体内動態

上述のいずれのヒトでの評価においても,ケルセチン配糖体配合飲料に起因する副作用は確認されなかった(18~22)18) M. Yoshimura, A. Maeda, I. Takehara, K. Abe, H. Ohta, Y. Kiso, I. Fukuhara & N. Sakane: Jpn. Pharmacol. Ther., 36, 919 (2008).22) Y. Yasutake, H. Hori, Y. Kitagawa & H. Sugimura: Jpn. Pharmacol. Ther., 43, 389 (2015)..また過剰摂取試験においても安全であることが確認された(23, 24)23) Y. Ishikura, W. Fuji, Y. Sakakibara, T. Kitogo, Y. Katagiri & M. Oki: Jpn. Pharmacol. Ther., 36, 931 (2008).24) Y. Ishikura, W. Fuji, Y. Sakakibara, K. Sakano, M. Hayashi & S. Ebihara: Jpn. Pharmacol. Ther., 40, 505 (2012)..さらに,体内動態を検討したところ,硫酸およびグルクロン酸抱合体が血中から検出されたことから,ケルセチン配糖体の配糖体部分が吸収過程で分解され,体内で抱合反応を受けることによって上記抱合体が生成することが推察された.また,単回および反復摂取したときの血中ケルセチン濃度を比較検証した結果,ケルセチンには体内蓄積性がないことも併せて確認された(未発表データ).

以上のように長い時間をかけ多くの臨床データを積み重ね,ケルセチン配糖体ならびにそれを配合した飲料は高い安全性と確かな有効性を有することが確認された.

7. 作用メカニズム

3T3-L1成熟脂肪細胞を用いてケルセチンの脂肪分解作用に関する作用メカニズムを詳細検証した.その結果,本作用は,アドレナリンβ受容体と協同的に働き,脂肪分解酵素の一つであるHormone-sensitive lipase(ホルモン感受性リパーゼ)のリン酸化と,それに伴う本酵素活性の亢進によることを解明した(14)14) N. Tateishi, K. Egawa, N. Kanzaki, Y. Kitagawa, H. Shibata, Y. Kiso, S. Enomoto, D. Fukuda, R. Nagai & M. Sata: Jpn. Pharmacol. Ther., 37, 123 (2009)..また,本脂肪分解作用はケルセチン同様,その硫酸およびグルクロン酸抱合体においても確認された(未発表データ).以上のことから,ケルセチン配糖体は摂取後,主にケルセチンとして吸収された後,脂肪組織で脂肪分解酵素を活性化することで肥満時に溜まった体脂肪を「分解」し,体脂肪低減作用を発揮する可能性が示唆された(図3図3■ケルセチン配糖体の体脂肪低減作用メカニズム).

図3■ケルセチン配糖体の体脂肪低減作用メカニズム

8. 特定保健用食品の表示許可申請

上述の作用メカニズムの検討結果およびケルセチン配糖体配合飲料による体脂肪低減作用の検証結果に加え,ヒトが過剰量摂取した際の安全性試験などの各種安全性評価結果を揃え,消費者庁に特定保健用食品の許可申請を行った.その後各種審査を経て,2013年7月,「伊右衛門 特茶」は,体脂肪を減らすのを助ける特定保健用食品として,「本品は,脂肪分解酵素を活性化させるケルセチン配糖体の働きにより,体脂肪を減らすのを助けるので,体脂肪が気になる方に適しています」と表示する許可を取得するに至った.

9. 飲料開発

ケルセチン配糖体配合飲料の開発においては,無理なく飲み続けられる高い嗜好性を目指した香味設計,飲料中におけるケルセチン配糖体の安定化,さらには工場で大規模に製造するための最適な工程検討など,飲料開発で生じるさまざまな課題があった.課題解決に向けてさまざまな検討を重ねた結果,ケルセチン配糖体の安定化を実現しつつ,緑茶としての高い嗜好性を兼ね備え,高品質な飲料製造が実現できる工程設計条件を見いだした.

おわりに

本開発研究をスタートさせるにあたり,そのゴールを「国民の健康の維持・増進の実現,特に肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善の継続的実践に向けて,消費者が選択できる保健機能食品の数やバリエーションを増やすこと」に設定した.さらにそのゴールに向けてより具体的には,「確かな有効性,安心して継続していただける安全な商品,飽きない美味しい味づくり,そして飲用シーンをできるだけ限定しない(いつでも飲める),新たなメカニズムターゲットをもつこと」に定めた.多くの検討結果,野菜に豊富に含まれるケルセチンが体脂肪を減らす可能性を見いだし,飲料適性の観点からケルセチン配糖体で飲料化を実現するに至った.本飲料は,体脂肪低減効果を有しながらも,無理なく安全に継続的に摂取することができる嗜好性の高い飲料として完成した.また,本飲料は「脂肪の分解」を商品開発のコアコンセプトに設定し,それに合致するメカニズムならびに素材を選択,配合することで,蓄積された体脂肪をより効果的に低減することを実現し,同時に,飲用シーンを限定しない,いつ摂っても効果的な食品として消費者の肥満ケアの選択肢を増やすことができたと考えられる.

また近年,肥満の病態およびその作用メカニズム,関連分子は日々飛躍的に解明されつつある(25, 26)25) 岡 芳知,片桐秀樹:“肥満・糖尿病の病態を解明するエネルギー代謝の最前線”,実験医学増刊,27, 2009.26) C.-S. Lai, J.-C. Wu & M.-H. Pan: Current Opinion in Food Science, 2, 9 (2015)..腸内細菌と肥満との関係性,CCK(cholecystokinin)やGLP-1(Glucagon-like peptide-1)をはじめとする消化管ホルモン分泌と肥満との接点,AMPK(AMP-activated protein kinase)に代表されるエネルギー代謝調節因子とその制御,脂肪を熱に変換する能力が高い褐色脂肪細胞(Brown adipose tissue)やベージュ脂肪細胞(Beige adipose tissue)などについては特に食との接点が大きい.また,摂食調節の分子機構あるいは神経ネットワークを介した臓器間連関による個体レベルでの代謝調節も徐々に明らかになりつつある.このような科学の発展に伴う,今後の新たな商品応用研究にも期待していきたい.

Acknowledgments

本成果は,サントリーホールディングス株式会社の関係者ならびに社外機関の関係者皆様のご尽力によるものです.ここに改めて感謝申し上げます.

Reference

1) 厚生労働省:平成26年国民健康・栄養調査報告,http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h26-houkoku.pdf, 2014.

2) 一般社団法人日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク管理,一般社団法人日本動脈硬化学会編,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版,2012.

3) 健康日本21企画検討会,健康日本21計画策定検討会:21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)について報告書,http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/pdf/all.pdf, 2000.

4) 羽田裕亮,山内敏正,門脇 孝:日本内科学会雑誌,104,735 (2015).

5) 厚生労働省:e-ヘルスネット,情報提供/身体活動・運動/エネルギー代謝の仕組み/有酸素性エネルギー代謝,https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-02-001.html

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14) N. Tateishi, K. Egawa, N. Kanzaki, Y. Kitagawa, H. Shibata, Y. Kiso, S. Enomoto, D. Fukuda, R. Nagai & M. Sata: Jpn. Pharmacol. Ther., 37, 123 (2009).

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19) M. Yoshimura, A. Maeda, J. Nakamura, Y. Kitagawa, H. Shibata & I. Fukuhara: Jpn. Pharmacol. Ther., 40, 901 (2012).

20) K. Egawa, M. Yoshimura, N. Kanzaki, J. Nakamura, Y. Kitagawa, H. Shibata & I. Fukuhara: Jpn. Pharmacol. Ther., 40, 495 (2012).

21) K. Saito, T. Tanaka, H. Obata, J. Nakamura, N. Fukui & N. Tonozuka: Jpn. Pharmacol. Ther., 43, 181 (2015).

22) Y. Yasutake, H. Hori, Y. Kitagawa & H. Sugimura: Jpn. Pharmacol. Ther., 43, 389 (2015).

23) Y. Ishikura, W. Fuji, Y. Sakakibara, T. Kitogo, Y. Katagiri & M. Oki: Jpn. Pharmacol. Ther., 36, 931 (2008).

24) Y. Ishikura, W. Fuji, Y. Sakakibara, K. Sakano, M. Hayashi & S. Ebihara: Jpn. Pharmacol. Ther., 40, 505 (2012).

25) 岡 芳知,片桐秀樹:“肥満・糖尿病の病態を解明するエネルギー代謝の最前線”,実験医学増刊,27, 2009.

26) C.-S. Lai, J.-C. Wu & M.-H. Pan: Current Opinion in Food Science, 2, 9 (2015).