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化学と生物 Vol.51 (2013) No.5

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巻頭言

“大学人”としてのアイデンティティ  /  重岡 成

Page. 271 - 271 (published date : 2013年5月1日)
冒頭文
リファレンス
学生に「大学(大学院)の先生って,何をするヒトですか?」と質問されて,「私たちの活動は,教育と研究の両面がありますね.特に研究面では,自分らの専門の分野を作る,確立すること.そのために,論文,特許,学会発表などを通して周りの皆さんに知らしめること,自らの作品を作ることだから,芸術家みたいな要素もありますね.だからいつも教育と研究の両面のバランスを考えないといけませんね」.このような私たちを,ここであえて“大学人”と呼んでみます.

今日の話題

コムギの種子休眠性を制御する遺伝子  /  中村 信吾

Page. 272 - 273 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
コムギは,うどんやパンなど私たちが食べるさまざまな食品の原材料として世界中で広く利用されている作物である.この作物の生産上の大きな問題点として,穂発芽による大規模な被害が発生しやすいということが知られている.この被害は,収穫時期が梅雨などの雨の多い季節と重なる日本などの国で特に問題になる.穂発芽は,種子の休眠が弱いために,降雨などにより種子が収穫前に発芽してしまう現象である.

慢性アレルギー性炎症におけるペリオスチンの役割  /  増岡 美穂, 出原 賢治

Page. 274 - 276 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
ペリオスチンは,はじめ骨芽細胞で強く発現しているタンパク質として同定され,osteoblast specific factor-2 (OSF-2) と名づけられた.その後,骨膜 (periosteum) や歯根膜靭帯 (periodontal ligament) に高発現していることから,ペリオスチン (periostin) と改名された.最近,われわれは,ペリオスチンがアトピー性皮膚炎 (atopic dermatitis;AD) の慢性化に重要な役割を果たしていることを明らかにしたので,それを中心に解説する.

ストリゴラクトン様化合物カロラクトンの新たな生合成経路  /  上原 奏子, 芦苅 基行

Page. 277 - 279 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
ストリゴラクトン (SL) は植物ホルモンの一つであり,植物体内において分枝の成長を抑制する働きをもつ(1, 2).もともとSLは根寄生植物ストライガ (Striga hermonthica) などの種子発芽を誘導する物質として発見され(3),多くの植物の根浸出液から単離・同定された.2005年にはミヤコグサの根浸出液からSLの一つである5-デオキシストリゴールが同定されたが,この物質はアーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐を誘導することが示された(4).このようにSLは植物のみならず複数の生物間で情報伝達物質として働いており,その構造と受容体について多くの研究が進められている.

酸素濃度応答にはタンパク質分解が必要?  /  北村 憲司

Page. 280 - 282 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
細胞内の酸化還元状態は一定レベルに維持されており,その乱れは疾病の一因ともなる.生存を酸素に依存する多くの生物では,ミトコンドリアでのATP生成時に生じる活性酸素種のほか,細胞内外のさまざまな酸化ストレスに常に対処している.微生物や植物では,雨天時の水没など逆に突発的な低酸素状況が起こりうる.さらに動物でも体内の酸素濃度は均一ではなく,哺乳類の骨髄中をはじめさまざまな組織の幹細胞が存在するいわゆる「幹細胞ニッチ」はほかよりも低酸素環境とされ,また血管が十分に発達せず酸素供給が不足する腫瘍組織内部でもがん細胞は旺盛に生育するなど,生物は低酸素状態に対応するすべも備えている.

植物の雑種強勢の分子生物学的な研究と展望  /  藤本 龍, 白澤 沙知子, 川辺 隆大, 岡本 俊介

Page. 283 - 285 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
動植物において,同一種内あるいは異種間のある特定の両親間の交雑により得られた雑種第一代 (F1:First filial generation) が両親よりも優れた形質を示す雑種強勢(ヘテローシス)という現象が知られている(1, 2).この現象の発見は100年以上も前にさかのぼり,Charles Darwinは自身の著書で,さまざまな植物種のF1個体において顕著な雑種強勢が見られることを報告している.その後,1908年にGeorge H. Shullにより,トウモロコシを用いて,この現象が再発見され,遺伝学的な解釈への試みが始まった(1).

解説

微生物による無機ヨウ素化合物の酸化還元反応  /  天知 誠吾

Page. 286 - 293 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
ヨウ素は人類の必須元素である一方,放射性ヨウ素のリスクに対する関心も高まっている.ヨウ素はさまざまな生物地球化学的プロセスを経て,地球環境中をダイナミックに循環している.近年,ヨウ素循環への環境微生物の関与が明らかになりつつある.ここでは,無機ヨウ素の酸化・還元を行う細菌について概説する.前者はヨウ素を化学兵器として,後者はヨウ素を呼吸の最終電子受容体として利用している.このような特異な細菌が,放射性ヨウ素を含むヨウ素の環境挙動や動態に寄与している可能性がある.

栄養センシングと細胞機能の制御  /  北田 宗弘, 古家 大祐

Page. 294 - 301 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
栄養応答シグナルは,アミノ酸やグルコースなどの栄養素摂取や活動により刻々と変化する細胞内のエネルギー状態を認識し,個体のエネルギー・栄養代謝の恒常性を維持している.栄養過剰状態では,栄養応答シグナルの調節不全として,mTOR経路(栄養過剰シグナル)増強やSIRT1, AMPK(エネルギー不足感受シグナル)の減弱が生じることで,エネルギー代謝の恒常性が正の方向へ破綻する.その結果,肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病を引き起こしている可能性が考えられるため,栄養応答シグナル調節不全の是正,すなわちmTOR経路抑制やSIRT1, AMPK活性化が治療標的として期待できる.

摂食・嚥下の基礎  /  山村 健介

Page. 302 - 309 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
近年脳血管障害の後遺症などで摂食・嚥下機能に障害をもつ患者が増加している。この私たちがふだん何気なく行っている「口から食べて飲む」という行為(摂食・嚥下)は、さまざまな運動要素が連続的・同時進行的に行われる複雑な運動である。また、それに伴いさまざまな感覚情報が生じ、これらは運動制御に利用されたり、大脳で認知され記憶にとどめられる。これらの機能を制御するのが脳であり、摂食・嚥下を営むためには脳のさまざまな部位の活動が必要不可欠である。本稿では摂食・嚥下機能を神経生理学の立場から解説したい。

植物が獲得した防御応答物質の生合成遺伝子クラスター  /  宮本 皓司, 岡田 憲典

Page. 310 - 317 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
自由に生息場所を移動できない植物は,外敵から身を守るためにさまざまな化学物質を生産しその侵略に対抗する.これらの化学物質のなかには病虫害などに対する防御物質として知られているものも存在しているが,それらの生合成を担う遺伝子はそのほかの代謝産物の生合成遺伝子と同様に,ゲノム中に散らばって存在していると考えられてきた.しかし,近年,ある種の防御物質生産に関与する一連の生合成遺伝子がゲノム中において集中して存在し,遺伝子クラスターを形成していることが報告された.さらに,その存在は複数の植物種において見いだされていることから,生合成遺伝子のクラスター化は植物のゲノム構造における特徴の一つとして理解され始めている.本稿では,植物の遺伝子クラスターの最新の知見について述べるとともに,われわれが現在進めているイネの生合成遺伝子クラスターの転写制御機構の研究成果について解説する.

セミナー室

1. 統計検定を理解せずに使っている人のために I  /  池田 郁男

Page. 318 - 325 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
このセミナーは,平成24年5月に開催された日本栄養・食糧学会の教育講演「栄養学・食糧学のための実践統計検定法」をもとに講演内容に沿って記述する.この講演は好評を得て,その後,お茶の水女子大学SHOKU­IKUプログラム特別講演会(平成24年6月)および平成24年度日本農芸化学会西日本支部および日本栄養・食糧学会九州・沖縄支部合同大会(平成24年9月)での特別セミナーで講演した.講演だけでは言葉足らずであった部分は,より詳しい内容を加えている.私は統計の専門家ではないので,話の内容は基本的に多くの統計書の受け売りであることをお許しいただきたい.実験研究に携わる研究者や学生にとって多くの統計書はわかりにくく,統計書を読むことは多大の苦痛を伴い,挫折することもしばしばである.そこで,本セミナーでは,実験研究者の視点から,どうすれば研究者が理解しやすいかを重点的に考えたつもりである.

2. 高CO2と光合成の生化学  /  牧野 周

Page. 326 - 332 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
CO2の濃度変化は,光強度,温度,水と並んで植物の光合成に大きな影響を与える環境要因である.しかし,CO2濃度は,ほかの環境要因とは異なり,気象の変化などによって本質的には大きく変動するものではない.人為的な原因による場合を除き,通常自然界で起こりうるCO2濃度変化は,極めて小さい.ただし,干ばつや乾燥,あるいは温度ストレスなど環境変化により気孔が閉じ,結果として葉の内部へのCO2供給が低下し,植物にとってCO2が枯渇する場合はある.一方,植物が高CO2環境にさらされるのは,本来は起こりえない環境である.

4. カイメン由来の多彩な二次代謝産物と共生微生物の関係  /  高田 健太郎, 松永 茂樹

Page. 333 - 339 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
海洋生物を対象とする天然物化学研究が盛んになってから,約40年が経つ.研究の初期は,人間活動に重大な影響を与える海洋生物毒(フグ毒tetrodotoxinや麻ひ性貝毒saxitoxinなど)が主な研究対象であった.やがて,海藻,カイメン,ホヤ,コケムシなどの海洋生物のなかに,陸上生物とは異なるユニークな化学構造をもった二次代謝産物が含まれることが明らかとなり,ついで,抗菌,抗真菌,細胞毒性をはじめとした生物活性物質が探索の標的になった.さらに,疾病の詳細なメカニズムの解明に伴い,その標的分子を対象とした生物医学的な活性試験がスクリーニングに用いられるようになり,海洋天然物化学研究は大きく発展した.

プロダクトイノベーション

ラット体外受精技術の実用化と今後の展望  /  青砥 利裕

Page. 340 - 345 (published date : 2013年5月1日)
概要原稿
リファレンス
ラットはマウスとともに古くから汎用されているげっ歯類の小型実験動物で,自然発症の病態(疾患)モデルも多数樹立されて広く利用されている.基礎データの蓄積も豊富で,病理学的な研究,栄養学や行動薬理学的な研究に汎用されている.マウスの10倍の体サイズをもつラットは,反復採血や生化学的解析に必要な材料を容易に確保でき,解剖や外科的手技を行ううえでも有利で,外科的病態モデルの作製も容易にできる.さらに,学習能力がマウスよりも高いことから,神経科学領域の研究にも利用が広がっている.