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注目記事

菌類の産業利用とコレクション  /  奥田 徹
プロシアニジンの新たな生体機能調節  /  山下 陽子, 芦田 均
プロシアニジンの肥満・高血糖予防効果
NMRと多変量解析を用いた食品成分の総合評価  /  細谷 孝博, 熊澤 茂則
世界の緑茶を例に—1H-NMRスペクトルからわかること—
高病原性鳥インフルエンザに対する粘膜ワクチンの開発  /  彦野 弘一, 平松 浩二, 白井 千亜希, 原田 裕太, 西藤 岳彦

化学と生物 Vol.52 (2014) No.8

全文PDF :

巻頭言

再考「農芸化学」  /  横田 明穂

Page. 489 - 489 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
冒頭文
リファレンス
2013年度で大学教授の職を辞すのを機会に,この47年間にわたって自分の専門分野だった「農芸化学」という学問あるいは研究分野を再考してみたい.「農芸化学」との出会いは,農芸化学科に入学したときだった.生物学にいくばくかの思い入れがあった自分にとって,有機化学や無機化学の学修後に生物化学,微生物化学,食品化学さらには栄養化学など,種々な角度から生物学あるいは生物由来の化学物質の詳細を学んだことは,その後の進路選択に大いに役立った.特に,光合成で合成されたデンプンやそのほかの主要栄養源がヒトのエネルギーになっていく仕組みの理解は,私を植物光合成に強くいざなった.まだ光合成の全体像を学べる日本語の専門書がないその頃,学科や学部図書室で購読されていたPlant Physiology, Annual Review of Plant Physiology,生物化学ジャーナルなどは大いに役立った.光合成の全体像が理解できるようになればなるほど,光合成のCO2固定反応からデンプンが合成される機構に興味をもち,さらにはその分野に身を投じることで社会に役立ちたいと考えるようになり,現在に至っている.では,この「農芸化学」はどのような目的で設置されたのだろうか.

今日の話題

糸状菌の形態形成過程におけるプロテインキナーゼCの機能  /  片山 琢也, 堀内 裕之

Page. 490 - 492 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
プロテインキナーゼC (PKC)は菌類から高等動物に保存されたセリン・スレオニンキナーゼである.哺乳類には12種のPKCアイソザイムが存在し,これらが複数のシグナル伝達系に関与していることが知られている.真核微生物において最もPKC研究の進んでいる出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにはPKCをコードする遺伝子はPKC1の1種類しか存在しない.PKC1のコードするPkc1pは細胞壁の完全性維持にかかわるシグナル伝達経路(cell wall integrity (CWI) 経路)において中心的な役割を担うことが示されており,pkc1欠失株は通常の培養条件では生育できないが,培地に浸透圧安定化剤を添加することによって生育が支持される(1).近年,複数の糸状菌においてもPKCをコードする遺伝子が単離され,その解析がなされている.本総説では最近明らかとなってきた糸状菌の形態形成過程におけるPKCの機能について,Aspergillus nidulansの知見を中心に概説する.

プロシアニジンの新たな生体機能調節  /  山下 陽子, 芦田 均

Page. 493 - 495 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
近年,ヒトの健康維持・増進に有効とされる機能性食品成分に関する研究が注目され,抗酸化能をはじめ,生活習慣病予防・改善,抗がん,免疫促進,抗アレルギー,血流促進など,さまざまな効果が報告されている.本稿で取り上げるプロシアニジン類は,カカオや黒大豆,シナモン,アップル,グレープシードなどの食品に多く含まれており,エピカテキンあるいはカテキンが縮合したオリゴマーで,2~15量体として存在する.水酸基による抗酸化能に着目すれば,オリゴマーであるプロシアニジンは抗酸化性が高いと期待できる.しかし,重合度の高い高分子化合物は,モノマーと比べると腸管からほとんど吸収されない.また,これまでの研究で,ポリフェノール類はわずかな構造の違いによって,機能やその作用機構が異なるということが報告されており,プロシアニジン類も重合度や結合形態によって生体での働きが異なると考えられるが,その詳細は明らかとなっていない.そこで本稿では,重合度の異なるプロシアニジン類の機能性と作用機構の一例として,私たちがこれまでに解明した肥満や高血糖予防効果を紹介する.

アレルギー炎症とIgE Heterogeneity  /  柏倉 淳一, 安藤 智暁, 川上 敏明

Page. 496 - 498 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
ヒトの体は外来から異物が侵入すると,それを排除しようと免疫応答が起こる.しかし,この免疫反応が生体内で過剰に起こると,生体防御反応のバランスは崩れ,さまざまな疾患が発症する.その一つにアレルギー疾患がある.喘息,アトピー性皮膚炎,花粉症および食物アレルギーといったアレルギー疾患は多種多様な病態を形成し,さまざまな免疫担当細胞が病態形成にかかわっている.また,これらの疾患において抗原特異的IgE抗体が非常に重要な役割を担っていることは周知の事実である.

微小管ダイナミクスはエンドソームの成熟を制御している  /  知念 拓実, 臼井 健郎

Page. 499 - 501 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
真核生物の細胞骨格の一つである微小管はα/βチューブリンヘテロダイマーが重合して形成される繊維状の構造体であり,細胞分裂時の紡錘体形成や細胞内シグナル伝達,細胞遊走,細胞内オルガネラの位置決定などのさまざまな細胞内機能にかかわっている.微小管の特筆すべき性質として重合・脱重合を絶えず繰り返す動的不安定性(微小管ダイナミクス)が挙げられる.微小管ダイナミクスはβチューブリンに結合しているGTPの加水分解によってα/βチューブリンヘテロダイマーの構造変化が誘起されることにより起こる脱重合反応(カタストロフ)や,カタストロフから再度重合に移行するレスキュー,また重合・脱重合ともに停止したポーズの状態に分けられる.

NMRと多変量解析を用いた食品成分の総合評価  /  細谷 孝博, 熊澤 茂則

Page. 502 - 504 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)は,物質の構造上の情報を得るために非常に有用な手法である.今では,単離もしくは合成した単一有機化合物の構造情報を得るために,また,タンパク質の立体構造を決定するために用いられている.今回は,1H-NMR測定により得られるスペクトルを新たな視点で解析し,そこに生物活性に関する情報を合せることで,さまざまな有益な情報が得られることができる例を以下に紹介する.

解説

糖質関連酵素の革新的利用技術・改変技術の開発  /  西本 完, 北岡 本光, 林 清

Page. 505 - 511 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
有史以前から人類は微生物を積極的に利用し,酒,パン,チーズ,ヨーグルトなどの発酵食品を製造しており,酵素の存在を認識する以前から酵素を積極的に活用してきた.近代社会においても,酵素の精緻かつ多彩な物質変換機能を利用する酵素利用技術は,新規食品素材や有用物質の効率生産のためには必要不可欠であり,特性の優れた酵素の検索・改良がたゆまなく実施されている.バイオテクノロジーが進歩したとはいえ,ようやくタンパク質の人工設計(デノボデザイン)が可能となり始めたところであり,活性を有する酵素をデノボデザインするにはほど遠く,アミノ酸配列から酵素の特性を評価する技術も構築されていない.そのため,天然酵素,天然酵素を一部改変した酵素,天然酵素を模した酵素から,最終的にはスクリーニングによって所望する酵素を選抜する必要がある.微生物の単離を経ずに,土壌に残存する遺伝子から酵素をスクリーニングすることも可能となったが,自然界の酵素にはおのずと限界もあり,新たな手法を検討した.40億年にわたる生物の進化は,とりもなおさずタンパク質(酵素)の進化であり,その手法は2つに大別できる.第1の手法は遺伝子上の1塩基の変化に起因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸1残基が変化する.第2の手法はエキソンシャッフリングなどの遺伝子の相同組換えに起因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸配列が大幅に変化する.環境に適応した生命体を維持・調節するために,両者の手法が繰り返されタンパク質は進化してきた.第2の手法はアミノ酸配列が大きく変化し酵素特性にも大きな変化をもたらすが,生物にとって致死的となる場合も多い.また,種の壁を超えることはできないことから,高頻繁には生じなかったと推察される.そこで,第1の手法としてランダムシャッフリングの事例,第2の手法として2件のキメラ酵素構築の事例を紹介する.

菌類の産業利用とコレクション  /  奥田 徹

Page. 512 - 518 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
菌類は古くから発酵食品製造に用いられてきた.わが国はこの分野に強みをもっており,独自の文化ともなっている.和食(日本人の伝統的な食文化)が先頃ユネスコ無形文化遺産に登録されたのもその表れと言えよう.近代発酵産業でも菌類は重要な役割を果たしており,20世紀後半にはいわゆるブロックバスター医薬が菌類から発見された.最近,発酵食品や天然物創薬に利用されてきた菌株について分子系統学的手法により新しい分類学や命名のメスが入れられ,興味深い事実がわかりつつあるが,これは貴重な歴史的菌株そのものが保存されていたからにほかならない.われわれはニッチとしての天然物創薬を夢見て,10年以上にわたり北海道から西表島まで幅広く,自然界でほかの生物と何らかのインタラクションのある菌類に特化して探索を続け,15,000以上の菌類菌株ライブラリと40,000以上の培養抽出物ライブラリを構築した.抽出物ライブラリはさまざまな生物活性データを付加してデータベース化しその利用を図ってきた.ここではそのコンセプトと最近の話題を紹介したい.

海洋性ケイ藻の炭素固定機構  /  松田 祐介, 中島 健介, 菊谷 早絵

Page. 519 - 529 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
海洋性ケイ藻類は,多様な水圏に適応し,地球一次生産(光合成)の約20%を担う生物として近年注目された.その結果,21世紀に入ってからゲノムインフラが整備され分子研究の端緒についた生物である.ケイ藻の分子研究は地球環境科学分野だけにとどまらず,バイオエネルギー,有用物質生産,およびナノテクなどの農・工学分野からも注目を集める.一方でケイ藻は,二次共生の謎やその過程で醸成されたユニークな代謝・生理など,基礎生物学の研究対象としてもたいへん興味深い生物である.ケイ藻の環境適応能力を知るうえで,一次生産の基礎となる光合成系およびその環境応答の詳細は最優先課題の一つである.とりわけ,アルカリ度や塩濃度の高い海洋環境でCO2を海水から取り込み葉緑体内部まで送り届けるシステムの重要性は高い.これまでにも生理学的なアプローチから海洋性ケイ藻がCO2とHCO3-の両方を海水から積極的に取り込み無機炭素への親和性が極めて高い光合成を行うこと,およびこの機能はCO2濃度が大気レベルより低いときに発現されることが報告されている.しかし,これらの機能にかかわる分子は僅かしかわかっていない.本稿では,海洋性ケイ藻が海水から直接HCO3-を取り込む“CO2濃縮”の分子機構の一端と取り込まれた無機炭素の流路を制御する分子機構について紹介する.また,海洋性ケイ藻類が環境CO2濃度に応答してCO2濃縮にかかわる因子を転写や翻訳後レベルで調節する分子機構についても解説する.

セミナー室

ドウとバッターの構造と特性  /  片桐 実菜, 北畠 直文

Page. 530 - 534 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
麺,天ぷら,パンそのほかのさまざまな小麦粉加工食品の多くは,小麦粉からまずドウやバッターを調製し,これを加熱して得られる.この小麦粉加工食品の物性はドウやバッターの特性とかかわっている.ドウの粘弾性が,麺の硬さや歯ごたえと関連し,バッターの流動性がクレープや天ぷらの食感にかかわる.さらに,このドウやバッターの物性には,小麦粉の成分であるタンパク質や糖質類が影響している.

植物におけるオートファジーの意義と役割  /  吉本 光希

Page. 535 - 540 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
動物と違い芽生えた場所から動くことができない植物は,刻々と変化する環境に適時順応し,ストレスを克服しなければ生き延びることができない.タンパク質など細胞質成分のみならずオルガネラのような巨大な構造体を丸ごと分解し,栄養源のリサイクルや細胞内リモデリングにかかわるオートファジーは,植物が過酷な環境で高次機能を維持し,生存していくうえで重要な機構の一つに違いない.植物オートファジーの存在は,動物におけるオートファジーの発見にさほど遅れることなく,1960年代後半から電子顕微鏡などを用いた形態学的観察により報告されている.

がん関連シグナル経路を標的とした植物由来天然物の探索  /  石橋 正己

Page. 541 - 548 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
がんはごく少数の自己複製能と多分化能をもつ細胞を頂点とする階層(ヒエラルキー)からなる不均一な細胞集団であり,この不均一性(ヘテロジェネティ)が治療抵抗性や再発の重要な要因となると認識されてきている.この頂点にあるごく少数の細胞(最近ではがん幹細胞と呼ばれている)は細胞周期の静止期にあるため,活発な細胞分裂を行うがん細胞を対象とした従来の抗がん剤や放射線治療には耐性を示し,生き残ることからがんの浸潤や再発を招く大きな要因となる.このようながんの進展と再発の制御に必須な細胞内シグナルとして,ウィント(Wnt),ヘッジホッグ(Hh),およびノッチ(Notch)シグナルなどが知られている.

生物コーナー

高病原性鳥インフルエンザに対する粘膜ワクチンの開発  /  彦野 弘一, 平松 浩二, 白井 千亜希, 原田 裕太, 西藤 岳彦

Page. 549 - 552 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza;HPAI)とは,家畜伝染病予防法において「国際獣疫事務局(OIE)が作成した診断基準によりHPAIウイルスと判定されたA型インフルエンザウイルスの感染による家禽(鶏,あひる,うずら,きじ,だちょう,ほろほろ鳥,七面鳥)の疾病」と規定されている.臨床的には,HPAIウイルスは感染鶏の全身の臓器で爆発的に増殖し,しばしば症状を示さずに数日のうちに感染鶏を死に至らしめることが多い.同時に,HPAIウイルスは感染鶏の鼻汁,痰,糞などに大量に排泄され,容易に周辺の鶏に伝播する.

学界の動き

『此の花会』を閉じるにあたって  /  高橋 信孝

Page. 553 - 554 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
日本農芸化学会に関係の深い方々が開催していた『此の花会』という小集会を,昨年,閉じることになり,その歴史のような物を書くように日本農芸化学会から依頼された.この会の性格などについて,よくご存じだった方々もほとんど他界されてしまい,運悪くこの大役が私に回ってきてしまったようである.まず,『此の花会』がどのような集会であったかを説明する必要があると感じている.私も十分に齢を重ねて記憶も定かではなく,また,会の運営法やこれまでのプログラムなどを記録した書類なども一切ないので,私の記憶をたどりながら,この一文をしたためさせていただくことにする.

農芸化学@HighSchool

マツの種類による松毬の鱗片配列の規則性の共通点と相違点  /  荒谷 優太, 石田 薫, 北野 彩華, 平岩 尚樹, 廣瀬 友佳, 赤塚 千春, 河内 遙, 中川 潤哉, 山本 彩楓

Page. 555 - 557 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
概要原稿
リファレンス
本研究は,日本農芸化学会2014年度大会(開催地:明治大学)での「ジュニア農芸化学会」において発表され,銀賞を表彰された.発表者らは,松毬(松かさ)の鱗片の配列様式について数年にわたって研究を続けており,その生物学的意義およびマツの系統関係についても考察を行っているなど,得られた結果は非常に興味深いものとなっている.