セミナー室 / 食品加工の科学と工学_小麦粉製品を例として

ミキシングによるパン生地のタンパク質と油脂の相互作用とタンパク質の変化

Vol.52 No.7 Page. 460 - 465 (published date : 2014年7月1日 advanced publication : 2014年6月20日)
福留 真一1, 西辻 泰之1, 隈丸 潤1, 松宮 健太郎2, 松村 康生2
  1. 株式会社日清製粉グループ本社
  2. 京都大学大学院農学研究科

概要原稿

パンの製造工程は,基本的にまず小麦粉,水,食塩,砂糖,ショートニング,イーストなどの原料を混ぜて練るミキシングから始まり,発酵,仕上げ(分割,丸め,ねかし,整形・型詰め),ホイロ(最終発酵),焼成から成る.最初のミキシング工程は,製パン工程の中で重要な工程の一つであり,パン生地はしだいに硬さを増し,粘弾性をもった生地(ドウ)に変化していく.この生地の状態が,その後の発酵や仕上げなどでの機械耐性に影響するだけでなく,焼き上げたパンの品質を左右するため,ミキシングを最適な状態に制御することが製パン工程上必須である.このミキシングの役割は,パン生地中の成分を均一に分散・水和させるとともに,小麦粉タンパク質の相互作用によるグルテンの形成を促進させることにある.粘弾性を示すパン生地の物性は,小麦粉に特異的なタンパク質であるグリアジンとグルテニンの2種類のタンパク質が相互作用して形成されるグルテンネットワーク構造によるものであり,ミキシング中のパン生地は,グルテンネットワークの形成に伴い,ピックアップ段階(材料に水などを加えて生地になっていない状態),クリーンナップ段階(生地としてつながった状態),ファイナル段階(生地を伸ばすと薄く滑らかに伸びる状態),オーバーミキシング段階(生地に弾力がなく湿り気と粘着性がある状態)へと変化する(図1).通常製パン工程では,その後の工程やパンの品質にとって最適なファイナル段階を見極め,生地のミキシングを終了することが重要とされている. 本稿では,製パンのミキシング工程において最適とされるファイナル段階のパン生地の挙動について,新たな視点から,非破壊分析法(共焦点レーザー顕微鏡,フーリエ変換型赤外分光法)を用いて,小麦粉タンパク質と油脂(ショートニング)との相互作用やタンパク質の二次構造変化の可視化に取り組んだ事例について紹介する.

リファレンス

  1. 1) 守屋岩夫,遠藤 周,奥富保雄:“製パン材料の科学”,光琳,1992, p. 99.
  2. 2) O. K. Chung, C. C. Tsen & R. J. Robinson : Cereal Chem., 58, 220 (1981).
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  4. 4) Z. Gan, R. E. Angold, M. R. Williams, T. Galliard et al. : J. Cereal Sci., 12, 15 (1990).
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  16. 16) J. H. Skerritt, L. Hac & F. Bekes : Cereal Chem., 76, 395 (1999).


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