解説

糖質関連酵素の革新的利用技術・改変技術の開発

Vol.52 No.8 Page. 505 - 511 (published date : 2014年8月1日 advanced publication : 2014年7月20日)
西本 完1, 北岡 本光1, 林 清2
  1. 農業・食品産業技術総合機構食品総合研究所
  2. 東洋大学

概要原稿

有史以前から人類は微生物を積極的に利用し,酒,パン,チーズ,ヨーグルトなどの発酵食品を製造しており,酵素の存在を認識する以前から酵素を積極的に活用してきた.近代社会においても,酵素の精緻かつ多彩な物質変換機能を利用する酵素利用技術は,新規食品素材や有用物質の効率生産のためには必要不可欠であり,特性の優れた酵素の検索・改良がたゆまなく実施されている.バイオテクノロジーが進歩したとはいえ,ようやくタンパク質の人工設計(デノボデザイン)が可能となり始めたところであり,活性を有する酵素をデノボデザインするにはほど遠く,アミノ酸配列から酵素の特性を評価する技術も構築されていない.そのため,天然酵素,天然酵素を一部改変した酵素,天然酵素を模した酵素から,最終的にはスクリーニングによって所望する酵素を選抜する必要がある.微生物の単離を経ずに,土壌に残存する遺伝子から酵素をスクリーニングすることも可能となったが,自然界の酵素にはおのずと限界もあり,新たな手法を検討した.40億年にわたる生物の進化は,とりもなおさずタンパク質(酵素)の進化であり,その手法は2つに大別できる.第1の手法は遺伝子上の1塩基の変化に起因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸1残基が変化する.第2の手法はエキソンシャッフリングなどの遺伝子の相同組換えに起因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸配列が大幅に変化する.環境に適応した生命体を維持・調節するために,両者の手法が繰り返されタンパク質は進化してきた.第2の手法はアミノ酸配列が大きく変化し酵素特性にも大きな変化をもたらすが,生物にとって致死的となる場合も多い.また,種の壁を超えることはできないことから,高頻繁には生じなかったと推察される.そこで,第1の手法としてランダムシャッフリングの事例,第2の手法として2件のキメラ酵素構築の事例を紹介する.

リファレンス

  1. 1) R. Fujii, M. Kitaoka & K. Hayashi : Nat. Protoc., 1, 2493 (2006).
  2. 2) R. Fujii, M. Kitaoka & K. Hayashi : Nucleic Acids Res., 34, e30 (2006).
  3. 3) 本 完,北岡本光:化学と生物, 46, 522 (2008).
  4. 4) Y. Koyama, M. Hidaka, M. Nishimoto & M. Kitaoka : Protein Eng. Des. Select., 26, 755 (2013).
  5. 5) B. Cournoyera & D. Faureb : J. Mol. Micorbiol. Biotechnol., 5, 190 (2003).
  6. 6) J. N. Varghese, M. Hrmova & G. B. Fincher : Structure, 7, 179 (1999).
  7. 7) T. Pozzo, J. L. Pasten, E. N. Karlsson & D. T. Logan : J. Mol. Biol., 397, 724 (2010).
  8. 8) A. Singh & K. Hayashi : J. Biol. Chem., 270, 21928 (1995).
  9. 9) 林 清:“食品技術総合事典”,朝倉書店,2008, p. 561.
  10. 10) M. Nishimoto, Y. Honda, M. Kitaoka & K. Hayashi : J. Biosci. Bioeng., 93, 428 (2002).
  11. 11) M. Nishimoto, M. Kitaoka & K. Hayashi : J. Biosci. Bioeng., 94, 395 (2002).
  12. 12) M. Nishimoto, S. Fushinobu, A. Miyanaga, M. Kitaoka & K. Hayashi : J. Biochem., 141, 709 (2007).
  13. 13) M. Nishimoto, M. Kitaoka, S. Fushinobu & K. Hayashi : Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, 904 (2005).
  14. 14) K. Hayashi : “Biocatalysis and Biomolecular Engineering,” John Wiley & Sons, Inc., 2010, p. 31.
  15. 15) S. Machida, S. Ogawa, S. Xiaohua, T. Takaha, K. Fujii & K. Hayashi. : FEBS Lett., 486, 131 (2000).
  16. 16) S. Nirasawa & K. Hayashi : Biotechnol. Lett., 30, 363 (2008).


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