今日の話題

光合成生物の仕組みとその光応答戦略
光を見て光を食べる

Vol.51 No.10 Page. 667 - 669 (published date : 2013年10月1日)
成川 礼1,2
  1. 東京大学大学院総合文化研究科
  2. 科学技術振興機構さきがけ

概要原稿

光合成と聞くと,光を浴びた緑葉が水分解に伴い酸素を発生し,二酸化炭素から炭水化物を合成する過程を想起するだろうが,光合成はもっと多様である.酸素を発生しない,緑色でない,あるいは,水を分解しない光合成生物も存在する.なかでも,最初にできた光合成は酸素を発生せず,硫化水素から硫黄を発生するような光合成であった.その後,2つの光化学系がつながり,水を分解し,酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアが出現した.それまでは硫化水素などが発生する局所的環境でのみ生命が存在していたが,水分解に成功したことで,生命は海全体へと生育環境を広げた.また,分子状酸素が存在しない環境に適応していた当時の生命にとって,活性酸素種の発生要因となる酸素は毒性が高く,酸素発生型光合成の出現により,絶滅の危機にさらされた.そのような状況が,酸素を代謝する呼吸と真核生物の誕生を促したと言える.さらに,放出した酸素により形成されたオゾン層が紫外線を遮断することで,生命の陸上進出が可能となった.このように,光合成は環境や生命を劇的に変化させ,生命の生育領域を大幅に広げた.光合成生物はこのような劇的な環境変化を生き抜き,多様な環境に適応したため,それぞれの環境に対する応答戦略も多様化している.ここでは,光環境に焦点を絞り,光合成生物の光応答戦略について簡単に紹介する.

リファレンス

  1. 1) C. Kami, S. Lorrain, P. Homitschek & C. Fankhauser : Curr. Top. Dev. Biol., 91, 29 (2010).
  2. 2) T. Ishizuka & M. Ikeuchi : Photochem. Photobiol. Sci., 7, 1159 (2008).
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  4. 4) R. Narikawa, F. Suzuki, S. Yoshihara, S. Higashi, M. Watanabe & M. Ikeuchi : Plant Cell Physiol., 52, 2214 (2011).
  5. 5) Y. Kawano, T. Saotome, Y. Ochiai, M. Katayama, R. Narikawa & M. Ikeuchi : Plant Cell Physiol., 52, 957 (2011).
  6. 6) N. Ohnishi, S. I. Allakhverdiev, S. Takahashi, S. Higashi, M. Watanabe, Y. Nishiyama & N. Murata : Biochemistry, 44, 8494 (2005).


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