セミナー室 / 天然化合物の探索と創製

異種発現による天然化合物創製

Vol.52 No.9 Page. 616 - 621 (published date : 2014年9月1日 advanced publication : 2014年8月20日)
新家 一男1, 池田 治生2
  1. 産業技術総合研究所
  2. 北里大学

概要原稿

天然物(天然物を模倣して合成された化合物も含む)は,現在上市されている臨床医薬品の6割以上を占めており,長い間薬剤開発のリード化合物のソースとして用いられてきた.特に,微生物は生物活性物質の宝庫と呼ばれており,われわれが思いつかないような多種多様な構造を有する化合物を生産する.ここ十数年の間,欧米の効率主義に発する,コンビナトリアルケミストリーによる化合物合成とそれらのライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングがわが国の製薬企業にも導入され,盛んに薬剤スクリーニングが行われたが,必ずしも期待された成果が出ていない.そのため,豊富な生物活性と大きなケミカルスペースをもった天然化合物が再注目されている.しかしながら,新規化合物の単離が困難になってきていることに加え,天然物ライブラリー作製には多くの時間およびコストを要することから非効率的であると考えられ,天然化合物スクリーニング研究は,多くの製薬企業で衰退の一途をたどっているのが現状である.天然物ライブラリーを用いたスクリーニングが非効率的であるというほかの理由として,培養抽出物という多くの夾雑物を含む試料を用いるため,多くの妨害物質から目的の活性のみを検知できる特化したアッセイ系を構築しなければならず,また擬陽性をいかに排除するかなどの工夫が要求される.さらに,目的の活性を検出した後,生物活性を指標に活性化合物の単離精製を要する.一方で,ゲノムシークエンス技術の発展に伴い,放線菌をはじめとして多くの二次代謝産物を生産する微生物のゲノム解析が行われた結果,微生物ゲノム中にはこれまで人類が利用できなかった多くの未利用生合成遺伝子が存在することが明らかになってきた(ゲノム解析された放線菌の二次代謝産物と生合成遺伝子群に関する最初のreview).

リファレンス

  1. 1) M. Nett, H. Ikeda & B. S. Moore : Nat. Prod. Rep., 26, 1362 (2009).
  2. 2) D. A. Hopwood, F. Malpartida, H. M. Kieser, H. Ikeda, J. Duncan, I. Fujii, B. A. M. Rudd, H. G. Floss & S. Omura : Nature, 312, 642 (1985).
  3. 3) R. McDaniel, S. Eber-Khosla, D. A. Hopwood & C. Khosla : Science, 262, 1546 (1993).
  4. 4) M. Komatsu, T. Uchiyama, S. Omura, D. E. Cane & H. Ikeda : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 2646 (2010).
  5. 5) H. Ikeda, K. Shin-ya & S. Omura : J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 41, 233 (2014).
  6. 6) M. Komatsu, K. Komatsu, H. Koiwai, Y. Yamada, I. Kozone, M. Izumikawa, J. Hashimoto, M. Takagi, S. Omura, K. Shin-ya et al. : ACS Synth. Biol., 2, 384 (2013).
  7. 7) L. Huo, S. Rachid, M. Stadler, S. C. Wenzel & R. Müller : Chem. Biol., 19, 1278 (2012).
  8. 8) A. Aroonsri, S. Kitani, J. Hashimoto, I. Kosone, M. Izumikawa, M. Komatsu, N. Fujita, Y. Takahashi, K. Shin-ya, H. Ikeda et al. : Appl. Environ. Microbiol., 78, 8015 (2012).


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