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高等植物において特定の遺伝子を標的として改変する技術
人工制限酵素を働かせるだけで標的遺伝子を破壊することが可能に

Vol.49 No.9 Page. 592 - 594 (published date : 2011年9月1日)
刑部 敬史1,2, 刑部 祐里子3, 土岐 精一1,4
  1. 農業生物資源研究所
  2. 埼玉大学環境科学研究センター
  3. 理化学研究所植物科学研究センター
  4. 横浜市立大学木原生物学研究所

概要原稿

遺伝子の機能を解析するとき,その遺伝子を特異的に破壊したり,あるいは機能を改変するために部分的に遺伝子の改変を行なうことが必要となる.こうした標的遺伝子特異的改変,特に標的遺伝子組換え(遺伝子ターゲッティング,GT)は,微生物では研究室内で日常的に用いられている.ゲノム上にDNA二重鎖切断(DSB)が生じたとき,2つの主要修復経路,相同組換え(HR)修復および非相同末端結合(NHEJ)修復によりつなぎ直される.GTは,標的遺伝子を改変させるための鋳型DNAを宿主細胞へ導入し,その鋳型DNAが標的遺伝子上に生じたDSBのHR修復に利用されることで成立する技術である.しかし,HR修復は細胞周期のごく限られた期間(S~G2期)で機能する経路であることに加えて,DSB末端の単純な再結合反応によるNHEJ経路が高等動植物では優勢な修復経路であるため,GTの頻度はきわめて低い(導入したDNA断片が宿主ゲノム上のランダムな場所に挿入される効率の1,000分の1から10,000分の1である).このため,高等真核生物では,マウスES細胞など一部の実験材料を除き,GTはきわめて困難な技術であった.

リファレンス

  1. 1) F. D. Urnov, E. J. Rebar, M. C. Holmes, H. S. Zhang & P. D. Gregory : Nature Rev. Genet., 11, 636 (2010).
  2. 2) X. Meng, M. B. Noyes, L. J. Zhu, N. D. Lawson & S. A. Wolfe : Nature Biotech., 26, 695 (2008).
  3. 3) Y. Doyon et al. : Nature Biotech., 26, 702 (2008).
  4. 4) F. Zhang et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12028 (2010).
  5. 5) K. Osakabe, Y. Osakabe & S. Toki : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12034 (2010).
  6. 6) S. Arnould, C. Perez, J.-P. Cabaniols, J. Smith, A. Gouble, S. Grizot, J.-C. Epinat, A. Duclert, P. Duchateau & F. Pâques : J. Mol. Biol., 371, 49 (2007).
  7. 7) J. Boch : Nature Biotech., 29, 131 (2011).


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