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始原生殖細胞の維持に関わるナノスの立体構造
明らかになった新奇ジンクフィンガードメインの構造と機能

Vol.49 No.10 Page. 662 - 663 (published date : 2011年10月1日)
橋本 博1, 田丸 浩2
  1. 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科
  2. 三重大学大学院生物資源学研究科

概要原稿

タンパク質の発現制御は生命活動の様々な局面で重要な働きをする.さらに,タンパク質の発現制御には「転写レベル」と「翻訳レベル」の制御があるが,初期発生過程ではすでに転写された母性由来のmRNAが多数存在するため,とりわけ翻訳レベルでの制御が重要になる.一方,卵や精子といった生殖細胞は個体発生の初期段階で形成される始原生殖細胞に由来しており,この始原生殖細胞は将来の卵巣や精巣になる部位(生殖巣)に移動することで卵や精子へと分化する.哺乳類,鳥類,両生類,魚類などの脊椎動物に共通して存在するナノス(Nanos)およびプミリオ(Pumilio)は特異的なRNA配列に結合し,Cyclin B などの標的mRNAの翻訳を阻害することが明らかになっている.また最近の研究で,マウス雄の生殖細胞は胎生期には決して減数分裂を行なわないが,Nanos2を欠損する雄の生殖細胞は減数分裂を開始するのみならず,雄化に必要な遺伝子の発現も失われて雌化することが判明した(1).また逆に,雌の生殖細胞にNanos2を発現させると雄化することもわかったことから,Nanos2は生殖細胞の性分化を制御する鍵遺伝子であり,この研究により卵と精子の最初の別れ道に関わる分子機構の解明にせまれると期待できる.

リファレンス

  1. 1) A. Suzuki & Y. Sada : Genes Dev., 22, 430 (2008).
  2. 2) D. Curtis, D. K. Treiber, F. Tao, P. D. Zamore, J. R. Williamson & R. Lehmann : EMBO J., 16, 834 (1997).
  3. 3) X. Wang, P. D. Zamore & T. M. Hall : Mol. Cell, 7, 855 (2001).
  4. 4) T. A. Edwards, S. E. Pyle, R. P. Wharton & A. K. Aggarwal : Cell, 105, 281 (2001).
  5. 5) X. Wang, J. McLachlan, P. D. Zamore & T. M. Tanaka Hall : Cell, 110, 501 (2002).
  6. 6) G. Lu, S. J. Dolgner & T. M. Tanaka Hall : Curr. Opin. Struct. Biol., 19, 110 (2009).
  7. 7) H. Hashimoto, K. Hara, A. Hishiki, S. Kawaguchi, N. Shichijo, K. Nakamura, S. Unzai, Y. Tamaru, T. Shimizu & M. Sato : EMBO Rep., 11, 848 (2010).


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