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酸素分圧の変化をモニターするインスリン様成長因子システム
酸素分圧の変化を胚の発育速度の調節につなげるしくみ

Vol.50 No.1 Page. 11 - 13 (published date : 2012年1月1日)
亀井 宏泰1,2, 梶村 真吾1, Duan Cunming1, 高橋 伸一郎2
  1. Department of Molecular, Cellular and Developmental Biology, University of Michigan
  2. 東京大学大学院農学生命科学研究科

概要原稿

酸素は,すべての動物細胞において細胞内で化学エネルギーを効率的に産生するために欠くことができない分子である.したがって,生体あるいは細胞を取り巻く環境中の酸素分圧は,多くの生命現象に影響を与える重要な環境要因の一つといえる.ヒトでは,低酸素が低栄養とともに発育遅滞の主要因であることはよく知られており,初期胚の周りの酸素分圧がどのように発生速度に影響するかについて,鋭意研究が進められてきた.筆者らの研究グループでも,発生速度が速く,遺伝子導入や胚体操作も容易で,何よりも体外発生であるため母体の干渉を受けず胚発生が容易に観察・評価できるゼブラフィッシュ胚を用いて,酸素分圧の変化に応じて起こる発生速度の変動の分子機構を調べている.この過程で,酸素分圧の変化が細胞内外の様々な因子の変動を介して,成長因子のひとつインスリン様成長因子(IGF)の細胞内シグナルを調節し,胚の成長速度が変化することが明らかとなった.ここでは,筆者らの研究成果を中心に,IGFシステムを介した酸素分圧と胚成長速度の連携機構について紹介したい.

リファレンス

  1. 1) S. Kajimura , K. Aida & C. Duan:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 1240 (2005).
  2. 2) S. Kajimura , K. Aida & C. Duan:Mol. Cell Biol., 26, 1142 (2006).
  3. 3) M. D. Seferovic, R. Ali, H. Kamei, S. Liu, J. M. Khosravi, S. Nazarian, V. K. M. Han, C. Duan & M. B. Gupta:Endocrinology, 150, 220 (2009).
  4. 4) H. Kamei, Y. Ding, S. Kajimura, M. Wells, P. Chiang & C. Duan:Development, 138, 777 (2011).
  5. 5) Y. Li, W. Xu, M. W. McBurney & V. D. Longo:Cell Metab., 8, 38 (2008).
  6. 6) P. Saenger, P. Czernichow, I. Hughes & E. O. Reiter:Endocr. Rev., 28, 219 (2007).


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