セミナー室
/ 産業微生物の細胞膜を介した物質輸送研究の最前線 -物質生産の効率化に向けた新たな挑戦-
コリネ型アミノ酸生産菌のもつ潜在的なグルコース輸送バイパス
Vol.50 No.4 Page. 283 - 288 (published date : 2012年4月1日)
概要原稿
本セミナー室は産業微生物の物質輸送とその応用に関する特集であるが,筆者らは最初からそれを意図したわけではない.当初の課題は,代表的なアミノ酸生産菌であるCorynebacterium glutamicum(以下,コリネ菌)の生育上限温度を改良することにあった.そのために何が同菌の生育上限温度を決めているのかに興味があり,この課題に対して2つの知見をつかんでいた.1つは,上限温度以上でリジン発酵を行なうとグルコースの消費速度は低下するものの,消費されたグルコース当たりのリジン発酵収率は維持されていたこと.もう1つは,ホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランスフェラーゼシステム (PTS) によって取り込まれる糖での生育上限温度が非PTS糖のそれに比べて若干低いことである.いずれの現象も,PTSによる糖の取り込み段階が生育上限温度の規定要因であると仮定すれば説明がつく.その仮説を検証する過程で,PTSの破壊株を造成していたのであるが,このPTS破壊株から低頻度ながらグルコース寒天培地にコロニーが出現する現象に出くわしたことがここで述べる主題の契機となった.本題に入る前に,筆者らの関わる発酵生産の研究分野で膜輸送系がどのように目を向けられてきたのか,その経緯を振り返ってみたい.
リファレンス
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