巻頭言

限りなく天災に近い人災考

Vol.50 No.9 Page. 621 - 621 (published date : 2012年9月1日)
高橋 秀夫1
  1. 東京大学名誉教授

冒頭文

人類の歴史は,さまざまな災害との闘いの歴史であるといっても過言ではない.自然現象に起因する災害,すなわち地震・津波・火山活動・気象関係などが自然災害(天災)であるとすれば,人間が介在する事故による災害が人災である.交通事故や建造物に関わる事故は,人災と言えるだろう.しかしながら,火事,河川の氾濫,あるいは大規模な疫病の流行などには,天災的な要素と人災的な要素とが複合的に関係している場合が少なくない.いずれにせよ,天災や人災による災禍を最小にとどめるために人類は,並々ならない努力をしてきた.地震に対しては耐震性の向上を,津波に対しては防波堤の構築といった具合である.科学・技術は,戦争によって飛躍するとよく言われるが,戦争や災害への備えは,科学・技術発展の大きな原動力となってきたことは否定できない.「天災は忘れた頃にやって来る」は,寺田寅彦博士の警句であるが,天災そのものには人智の及ばないというニュアンスがある.必ずやって来るが,いつ来るか分からない自然による災害を最小限にするための努力を払うのは人間の知恵である.人間の力ではどうにもできない種類の災禍を最小限にすることは,さらに大事な人間の知恵というものであろう.

リファレンス



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