今日の話題

運動学習の記憶を長持ちさせるのに,適度の休憩をとることが大事なのはなぜか
運動記憶の固定化の脳機構

Vol.50 No.9 Page. 631 - 632 (published date : 2012年9月1日)
永雄 総一1
  1. 理化学研究所脳科学研究センター

概要原稿

“Practice makes perfect” という英語のことわざがある.「継続は力なり」と訳されている.このことわざの意味するところは,一夜漬けでまとめて学習をするよりも,少しずつコツコツと学習するほうが,学習によってできる記憶がより長く続くということである(図1).この現象は19世紀より知られており,心理学では分散効果 (Spacing Effect) と呼ばれる(1).分散効果は,エピソードや意味に関する記憶(陳述記憶)にも運動学習の記憶である運動記憶にもあるが,そのもとになる生物学的メカニズムについては,昆虫などの無脊椎動物の運動学習を除くと,ほとんど研究されてこなかった.筆者はこれまで,マウス,ウサギとサルの眼球運動を用いて,小脳による運動学習の脳メカニズムを研究してきたが,最近,分散効果を用いた実験プロトコールを開発し,運動学習を効率よく行うことに成功した.これを用いて分散効果のもとになるメカニズムを調べたが,記憶の原因となるシナプス伝達の可塑性の生じる部位が,神経回路上を移動することがその原因の一つであることを突き止めた.さらに脳の神経細胞で作られる未知のタンパク質と,休憩時の神経細胞の電気活動が,それに必要であるという新しい知見を得た(2, 3).

リファレンス

  1. 1) L. R. Squire & E. R. Kandel : “Memory from mind to molecules,” Henry Holt and Company, New York, 1999.
  2. 2) T. Okamoto et al. : J. Neurosci., 31, 8958 (2011).
  3. 3) 永雄総一:生体の科学,63, 34 (2012).
  4. 4) 永雄総一,北澤宏理:Brain and Nerve, 60, 783 (2008).
  5. 5) T. Okamoto et al. : Neurosci. Lett., 504, 53 (2011).


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