セミナー室
/ 放射性降下物の農畜水産物等への影響
乳牛における放射性セシウムの動態
Vol.50 No.9 Page. 668 - 670 (published date : 2012年9月1日)
眞鍋 昇1
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場
概要原稿
原発事故に起因する放射性物質で汚染された飼料を用いた実証的試験の必要性
平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって東京電力株式会社福島第一原子力発電所で大きな事故(以下原発事故)が発生し,私たちが直接口にする食品だけでなく家畜の飼料もさまざまな放射性核種(以下放射性物質)によって汚染されることとなった.事故直後の平成23年3月17日に汚染された食品について食品衛生法上の暫定規制値が定められ,牛乳に対しては放射性ヨウ素70 Bq/kg以下,放射性セシウム200 Bq/kg以下とされた(平成24年4月1日からは放射性セシウム50 Bq/kg以下とする新基準値が遵守されている).つづいて平成23年4月14日には暫定規制値を超えない牛乳を生産できるようにするため,粗飼料中の原発事故に起因する放射性物質の暫定許容値(300 Bq/kg以下)が設定された(平成24年2月3日からは100 Bq/kg以下).これらの規制値や許容値は国際原子力機関 (International Atomic Energy Agency;IAEA) などが取りまとめた報告に基づいて急遽設定されたものであるが,わが国において一般的な条件下で栽培された粗飼料を乳牛に給与したときに粗飼料に含まれる放射性物質がどの程度牛乳へ移行するのか,放射性物質を含まない飼料に切り換えた際に牛乳中から消失するのかなどの実態が正確に把握されてはいなかった.放射能に対する感受性が高いと考えられている乳幼児や児童の食品として重要である牛乳の生産に関わる適切なリスク管理措置を提案するためには,原発事故に起因する放射性物質で汚染された飼料を用いた実証的試験に基づいた正確な知見が求められていた.そこでわが国における主要な生乳生産地である北関東圏に位置している東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場(以下牧場)と同附属放射性同位元素施設が協力して,牧場の圃場で栽培していた一年生草本牧草(イタリアンライグラス)を牧場で飼養していた泌乳中の乳牛に給与して実証的試験を実施し,これらの点を明らかにしたので紹介する.
リファレンス
- 1) (財)原子力環境整備センター:“飼料から畜産物への放射性核種の移行係数”, 1995.
- 2) 橋本 健,田野井慶太朗,桜井健太,飯本武志,野川憲夫,桧垣正吾,小坂尚樹,高橋友継,榎本百合子,小野山一郎,李 俊佑,眞鍋 昇,中西友子:RADIOISOTOPES, 60(8), 335 (2011).
- 3) 高橋友継,榎本百利子,遠藤麻衣子,小野山一郎,冨松 理,池田正則,李 俊佑,田野井慶太朗,中西友子,眞鍋 昇:RADIOISOTOPES, in press.
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