セミナー室 / 放射性降下物の農畜水産物等への影響

高線量地帯周辺における野生動物の生態・被曝モニタリング

Vol.50 No.11 Page. 825 - 829 (published date : 2012年11月1日)
石田 健1
  1. 東京大学大学院農学生命科学研究科

概要原稿

福島第一原子力発電所の北西方向へ延びる,放射性物質が高濃度に沈着した阿武隈山地北部地域には,ニホンザル,イノシシ(北限),ホンドギツネ,トウホクノウサギなどの哺乳類,ウグイス,ホオジロ,アオゲラ,ノスリ,フクロウなどの鳥類をはじめ,多様な生物が生息している. 生命現象は,生体を構成する物質の化学・物理的な現象と作用が進んで発現すると同時に,DNAから個体,個体群や生態系までの副層で,複雑な営みを見せる.それらは,生物間相互作用を伴って,細胞内から景観までの「環境」のなかで多様に異なる発現を示し,その結果は確率的に予測される(1).福島第一原発事故(以下「原発事故」)は,世界で5回目の大きな放射能に関わる事件,事故であり,広島,長崎での原爆投下はもとより,スリーマイル島やチェルノブイリにおける事故とも,事故の影響が及ぶ環境や事故の性質が異なる.生命現象においては,このようなまれに起こる環境変化が,その後の結果に大きく作用することがしばしば見られるため(2),原発事故の影響を野生生物についてもその場で(in situ という)モニタリングして,経過と結果を記録する意義が高い.

リファレンス

  1. 1) S. F. Gilbert & D. Epel : “Ecological Developmental Biology,” Sinauer, Sunderland, 2009, p. 480.
  2. 2) M. Begon, C. R. Townsend & J. L. Harper : “Ecology (4th ed.),” Blackwell, Hoboken, 2006, p. 738.
  3. 3) ICRP : “Environmental Protection ― The Concept and Use of Reference Animals and Plants,” ICRP Publication 108, Ann. ICRP, 38 (4–6), 2008, p. 78.
  4. 4) 戸澤 章:“原町市史”,原町市,2005, p. 606.
  5. 5) J. C. Wingfield, K. Kubokawa, K. Ishida, M. Wada & S. Ishii : Zool. Sci., 12, 615 (1995).
  6. 6) L. M. Romero, M. Ramenofsky & J. C. Wingfield : Comp. Biochem. Physiol. Part C, 116, 171 (1997).
  7. 7) M. Wada, T. Shimizu, S. Kobayashi, A. Yatani, Y. Sandaiji, T. Ishikawa & E. Takemure : Gen. Comp. Endocr., 116, 422 (1999).
  8. 8) T. Imura, Y. Suzuki, H. Ejiri, Y. Sato, K. Ishida, D. Sumiyama, K. Murata & M Yukawa : Veter. Parasit., 183, 244 (2012).
  9. 9) I. I. Kryshev, T. G. Sazykina & N. A. Beresford : “Chernobyl, Catastrophe and Consequeces,” Springer Berlin, 2005, p. 267.
  10. 10) A. V. Yablokov : “Chernobyl, Consequences of the Catastrophe for People and the Environment,” N.Y. Academy of Science, New York, 2005, p. 255.


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