生物コーナー

生きた化石,ムカシトンボの由来

Vol.50 No.11 Page. 840 - 843 (published date : 2012年11月1日)
吉澤 和徳1
  1. 北海道大学農学部

概要原稿

生物の分布は,それら自身の系統進化や分散の歴史のほか,過去から現在にわたる地史や気候変動などの影響も反映する.そのため生物の分布の変遷を推定するためには,分類学,系統学,生態学,古地理学,古気候学といったさまざまな研究分野からの知見を統合する必要がある.いずれの要因も,過去の状態の推定は時代をさかのぼるに従って困難になるため,それらを統合して行われる古い時代の生物の分布の推定はより困難となる.一方,同一種の分布の変遷といった新しい時代の事象は,古地理,古気候などの推定精度は高くても,形態情報を利用した種内系統の解析ができず,かつてはその推定が困難だった.しかし近年,分子データ,特に塩基配列情報を用いた系統解析が容易になったことで,種内の遺伝的構造の高精度な推定が可能になった.また塩基配列データは形態データと異なり,変異の量が分岐してからの時間とおおよそ相関するという利点もある.これにより,集団遺伝学,系統学,生物地理学を統合した系統地理学が誕生し,地史的に新しい時代の生物相の変遷に関する研究は大きく進んだ.

リファレンス

  1. 1) J.-K. Li et al. : Syst. Entomol., 37, 408 (2012).
  2. 2) A. C. Rehn : Syst. Entomol., 28, 181 (2003).
  3. 3) S. Asahina : Int. Rev. Hydrobiol., 46, 441 (1961).
  4. 4) S. Büsse et al. : PLoS ONE, 7, e38132 (2012).
  5. 5) 堀田 満:“植物の分布と分化”,三省堂,1974, p. 400.
  6. 6) 白水 隆:松蟲,2, 1 (1947).


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