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化学と生物 Vol.51 (2013) No.9

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巻頭言

国民的教養としての「生命・食糧・環境」  /  古賀 洋介

Page. 587 - 587 (published date : 2013年9月1日)
冒頭文
リファレンス
私は古細菌の脂質の研究から,細胞,膜,脂質の初期進化について発想を巡らしながら,農芸化学との関連について折に触れて考えてきた.「農芸化学出身者がなぜ生命の起原や進化の問題にかかわるのか?」農芸化学は化学的側面から食糧生産の向上を目指すものと理解している.

今日の話題

植物が茎を伸ばす仕組みで働くスイッチの発見  /  打田 直行

Page. 588 - 589 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
背の高さは植物種によってさまざまであり,また,同じ種内においても品種ごとに大きく変わることもあることから,植物の形態を特徴づける大きな要因の一つである.さらに,植物は芽生えた場所でのさまざまな環境の変化に柔軟に適応して生育する必要があり,その環境適応の際には背丈を柔軟に調節することも多い(1).以上のように,背丈をコントロールする仕組みの解明は,植物種ごとに固有な形作りのメカニズムの解明にとってだけでなく,環境適応といった生存戦略の理解のためにも重要である.

O6-メチルグアニンに誘導されるアポトーシスの分子機構  /  藤兼 亮輔

Page. 590 - 591 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
DNAは紫外線,化学物質,通常の代謝によって生じる活性酸素など,さまざまな内的,外的要因によって絶えず損傷を受けており,それらは修復されないと遺伝病や,がんといった疾病を引き起こす原因となる.DNAのアルキル化塩基損傷はアルキル化剤による処理や,生体内代謝産物であるS-アデノシルメチオニン,食物に含まれる硝酸化物から生じるニトロソ化合物などによって引き起こされる.アルキル化損傷のほとんどはN-メチル化で,これらはDNA複製を阻害するため,塩基除去修復によって素早く発見され除かれる.一方,グアニンの6位の酸素原子のアルキル化によって生じるO6-メチルグアニン (O6MeG) は,DNA複製を阻害しない.そしてこれがDNA複製の鋳型となるとき,DNAポリメラーゼがシトシンと同程度の割合でチミンを挿入してしまうためO6MeG:T誤対合を生じる.

植物由来の食品成分と温度感受性TRPチャネル  /  富永 真琴

Page. 592 - 594 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
TRP (Transient Receptor Potential) イオンチャネルスーパーファミリーの最初の分子は1989年にショウジョウバエの眼の光受容にかかわるタンパク質として報告された.TRPチャネルは一つのサブユニットが6回の膜貫通領域を有するCa2+ 透過性の高い非選択性陽イオンチャネルであり,TRPスーパーファミリーは哺乳類では大きく TRPC, TRPV, TRPM, TRPML, TRPP, TRPA の6つのサブファミリーに分かれ,ヒトでは27の分子がセンシングをはじめとするさまざまな細胞機能にかかわることが明らかになっている(1).

陸上植物の世代交代の謎にせまる  /  榊原 恵子

Page. 595 - 596 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
私たちは日常的にさまざまな植物を目にする.その数,30万種ともいわれている陸上植物は約4億7千万年以上前にシャジクモ藻類のような祖先から起源したと考えられている(1).陸上植物はその生活環のなかで染色体を一組もつ時期(単相)と二組もつ時期(複相)とを交互に繰り返し,大きさや生活様式の異なる多細胞体制を構築する異形世代交代を行う.

哺乳類遺伝子発現に重要な高次エピゲノム制御  /  竹林 慎一郎, 中尾 光善

Page. 597 - 599 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
エピゲノム制御とは,DNA配列に変化を伴わない遺伝子発現調節のことで,クロマチンDNAの構造変化がその分子機構として知られている.このエピゲノム制御は生命にとって根元的なプロセスの一つである.たとえば,われわれの体を構成するさまざまな種類の細胞は,もとは一つの細胞(受精卵)に由来しているので共通のゲノム配列をもっているが,それぞれの細胞種に特異的な遺伝子発現パターンを形成・維持するのにこのエピゲノム制御が重要な役割を果たしている.

本能をコントロールする嗅覚の「言語」  /  磯貝 洋

Page. 600 - 602 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
すべての哺乳類にとって性行動,縄張り争い,捕食者から身を守る行動などの本能的な行動は個体の生存,また種の保存という観点で重要である.

解説

環境ストレスとゲノム進化  /  伊藤 秀臣

Page. 603 - 608 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
動く遺伝子であるトランスポゾンは,われわれを含むほとんどの生物がもっている内在性の因子である.科学の進歩とともに,トランスポゾンの役割,存在意義が重要視されるようになってきた.というのも,トランスポゾンは生物の発生過程で必要な遺伝子発現を調節するなど,生命の存続に重要な役割を果たすことが明らかになってきたためである.では,トランスポゾンはいつ,どのように維持,保存されてきたのであろうか? ここでは,環境ストレスが引き起こすトランスポゾンの活性化とトランスポゾンの転移がもたらすゲノム進化について解説したく思う.

リボソーム生合成とその調節  /  水田 啓子

Page. 609 - 614 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
リボソームが正常に合成されないことに起因するリボソーム病が次々と見いだされている.本稿では,真核生物におけるリボソーム生合成の機構について概説し,リボソーム生合成が破綻したときに起きる現象について解説する.また,出芽酵母のリボソーム生合成調節タンパク質の研究によって明らかになった,リボソーム生合成と細胞内のほかの制御システムとの関連や,さまざまな生物種におけるリボソームの不均一性など,新たな課題についても紹介する.

メタボロミクスの農業・食品分野への応用  /  及川 彰

Page. 615 - 621 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
メタボロミクス(メタボローム解析)は近年の分析装置の性能向上に伴い,急速に確立が進んでいる研究手法である.メタボロミクスのターゲットである低分子化合物は様々な生物活性に直接かかわる要素であり,これらを網羅的に調べることによって,未知の生物機能の解明につながる可能性がある.近年のメタボロミクスを用いた研究には,生理現象の解明などの基礎研究に加え,バイオマーカーの発見など医療分野における応用例が多く認められる.一方で低分子化合物は食味や色など農産物や食品の品質にかかわる分子でもあることから,メタボロミクスは農業・食品分野でも十分に応用が可能な技術であることが示唆される.本稿では,メタボロミクスについての概説から実際の農業・食品分野への応用例や可能性を述べる.

セミナー室

4. キャッサバ澱粉の生産性向上を目指して  /  内海 好規, 櫻井 哲也, 石谷 学, 関 原明

Page. 622 - 627 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
一般に「キャッサバ」と説明するよりも,「タピオカ」と言えば,ご理解していただけることが多い.「タピオカ」とは「キャッサバ」の塊根から精製した澱粉のことである.中南米では「マニオカ」「ユカ」と呼ばれており,世界中でさまざまな呼び名で親しまれていると思うのだが,本稿では「キャッサバ」という呼び名に統一したい.われわれは東南アジアで食糧安全保障や貧困削減,産業上重要な熱帯作物「キャッサバ」の分子育種研究をキャッサバ主要生産国であるタイのマヒドン大学やベトナムの農業遺伝学研究所 (AGI), 世界最大のキャッサバ遺伝資源を保有するコロンビアの国際熱帯農業センター (CIAT) と共同で推進している.

4. FACE 実験による水田生態系の気候変動応答研究  /  臼井 靖浩, 常田 岳志, 酒井 英光, 林 健太郎, 長谷川 利拡

Page. 628 - 633 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
今後予測される大気中のCO2 濃度の上昇は,光合成を高める一方,気孔を閉じ気味にするなど,主要な植物生理過程に直接的な影響を与える.光合成の促進は乾物生産を増大させる一方で,気孔開度の低下は水消費を低減する.その結果,多くの作物で収量の増加や水利用効率(水消費当たりの生産量)の向上が予測されている(1).しかし,CO2 の影響は,これらの直接的あるいは一次的な影響だけにとどまらない.光合成の促進は,植生による炭素固定を高め,生態系の炭素循環にも影響する.

10. コムギにおける放射性セシウムの直接汚染の形跡と玄麦への移行,および本連載最終回にあたって  /  田野井 慶太朗

Page. 634 - 637 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により,主に放射性セシウム (137Cs, 134Cs) および放射性ヨウ素 (131I) で一部の地域では農地が高濃度に汚染された.広く農地が放射性核種により汚染された例としては,過去の大気圏内核爆発実験やチェルノブイリ原子力発電所事故によるフォールアウトがあり,これらの農地汚染の調査について,多くの知見,報告がある.

「化学と生物」文書館

キンチ,ケルネル,ロイブと日本の農芸化学曙時代 後編  /  熊澤 喜久雄

Page. 638 - 644 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
日本の農芸化学の基礎を樹立したケルネルは世界の農芸化学者であった.彼の名は現在においても日本の「ケルネル田圃」,ドイツの「オスカル・ケルネル栄養生理研究所」として残され,追慕されている.

バイオサイエンススコープ

「植物CO2資源化研究拠点ネットワーク(NC-CARP)」プロジェクトへの招待  /  齊藤 知恵子, 福田 裕穂

Page. 645 - 649 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
二酸化炭素排出による地球温暖化や,枯渇しつつある化石エネルギーなど,顕在化する地球環境問題を解決するためには,植物や微生物を利用した,循環型エネルギーや二次代謝産物の生産,さらにはバイオプラスチックをはじめとした高付加価値のバイオ素材開発などの,持続可能社会に向けての技術の開発が不可欠である(1, 2).植物は地上の二酸化炭素を,太陽エネルギーを用いて糖に代え,これをデンプン,炭化水素,セルロースなどとして蓄える.人間はこれまで植物を,長いものでは1万年の年月をかけて作物として品種改良し,食糧として利用してきた.

農芸化学@HighSchool

2012年台風4号による塩害とその発生機構の解明  /  石原 和赳, 高橋 徹, 村松 拓実, 鈴木 那加

Page. 650 - 652 (published date : 2013年9月1日)
概要原稿
リファレンス
本研究は,日本農芸化学会2013年度仙台大会において開催された「ジュニア農芸化学会」で発表され,和文誌編集委員会から高い評価を受けたものである.2012年6月19日,本州を横断した台風4号 Guchol (T1204) は,広範囲にわたり植物に塩害をもたらした.本研究は,海岸から15 km離れた地点における塩害の発生メカニズムについて,実態調査から仮説を導き,過去の台風の記録との比較やモデル実験から解明を試みたものである.