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(published date : 2011年7月1日)
DNAの遺伝暗号から伝令 RNA (mRNA) が合成され(転写),mRNAの情報に従って転移 RNA (tRNA) の運ぶアミノ酸がリボソームで正しくつながり(翻訳),タンパク質が合成されるという流れが生物学の基本原理,「セントラルドグマ」である.そのうち遺伝暗号情報に従ってタンパク質が合成される翻訳の段階はきわめて正確で,tRNAに特定のアミノ酸を受け渡す(アミノアシル化する)重要な役割を果たすのがアミノアシルtRNA合成酵素 (aaRS)である.一方で,aaRS活性をもたないaaRSに似たタンパク質(aaRSパラログ)が多くの生物に存在することが知られるようになってきた.たとえば,ヒスチジン生合成に関わるHisZ,アスパラギン生合成に関わるAsnA,ビオチン合成に関わるBirA,抗酸化物質マイコチオールの合成に関わる MshC, tRNA の塩基修飾に関わるYadBなどがある.aaRSパラログは進化的にはaaRSと近縁でありながら,tRNAをアミノアシル化する活性をもたず,多くについては機能が不明である.aaRSパラログの構造と機能を明らかにしていくことは,遺伝暗号翻訳システムのみならず生物進化を知る上でも重要と考えられる.