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化学と生物 Vol.51 (2013) No.7

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巻頭言

バイオインフォマティクスから新生物学へ  /  久原 哲

Page. 431 - 431 (published date : 2013年7月1日)
冒頭文
リファレンス
昔の話で恐縮ですが,私もコンピュータのボードゲームに熱中した時代がありました.これらのゲームで,ターンと呼ばれるゲーム進行の単位があり,各プレイヤーに一定の順序でターンが訪れ,ターンが回ってきたプレイヤーは,自分の取る手を選択することになります.このターン制のゲームを生物学に例えると,1990年代から2000年代における,バイオインフォマティクスの勃興とゲノムプロジェクトの開始は新しい生物学分野のターンでした.

今日の話題

エタノールを作らない酵母に酔いしれる  /  冨田 康之, 生嶋 茂仁

Page. 432 - 434 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
「酵母」は,明治時代にビールの製法が海外から伝えられたときに,「Yeast」の訳として「発酵の源(母)」を意味する字が当てられたのが語源と言われている.普段,われわれが「酵母」と言うと,出芽酵母の一種Saccharomyces cerevisiaeを指すことが多い.この酵母種は,醸造などの産業に利用されているだけでなく,ライフサイエンスの分野においても真核生物のモデル実験系として古くから用いられており,最先端の研究成果が多く生み出されてきた.

生物における化合  /  長谷川 英祐, 八木 議大

Page. 435 - 437 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
生物のなかには,複数の個体が協同してコロニーを作って暮らすものがいる(1).アリ,ハチ,シロアリが代表で,その多くは,ワーカーが卵を産まない.次世代にできるだけたくさんの子どもを残すタイプが進化していくと予測する進化理論のなかで,子どもを産まない社会性昆虫のワーカーの行動がどうして進化できたのかは,ダーウィン以来の大きな謎だった.子どもを産まずに働くという性質がどうして次の世代に伝わっていくのかが説明できなかったからだ.

嗅覚系におけるCO2センシングの分子機構  /  高橋 弘雄, 坪井 昭夫

Page. 438 - 440 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
嗅覚系の研究は,1991年にLinda BuckとRichard Axelが匂いのセンサーである嗅覚受容体ファミリーを発見したことを端緒に(1),ここ20年間で急速な進展を遂げた.近年,マウス・線虫・ショウジョウバエなどの複数のモデル生物を用いた嗅覚研究が進むにつれて,ヒトでは匂いとして感じることができないCO2が,これらの生物では重要な匂い分子として働くことが明らかにされてきた.地球の大気には,現在約0.04%のCO2が含まれているが,上記の生物は嗅覚を用いてCO2濃度の微妙な変化を感知し,誘引や忌避などの行動を示す.嗅覚によるCO2センシングに関する研究は,「生物が外界の環境をいかに感知し,それに応じた行動を示すのか?」という脳の情報処理機構を知るうえで,極めて重要である.

原核生物の新規な獲得免疫機構CRISPR/Casシステム  /  渡辺 孝康, 中川 一路, 丸山 史人

Page. 441 - 444 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
近年,細菌学の分野でCRISPRという目新しい言葉が注目されている.真正細菌・古細菌に広く保存されており,細菌の外来性遺伝子に対して獲得免疫機構を担っていることが示唆されていることから,細菌の生命現象を理解するうえで欠かせない遺伝的要素であると言える.しかしCRISPRに関する総説は,あまりに急激に研究が進展しているため,本邦ではいまだ出版されていない.本稿ではCRISPRに関する基本的事項について述べるとともに,菌株タイピングへの応用や獲得免疫以外の新機能などの最新のトピックについても,われわれの研究成果を交えながら紹介したい.

植物が薬用成分を輸送・蓄積する仕組みの解明  /  士反 伸和

Page. 445 - 447 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
植物はさまざまな環境に適応するため,機能を特化させた代謝産物(二次代謝産物)を作り出してきた.われわれ人類は古来よりこれら植物由来の代謝産物を薬や毒として用いてきている.たとえば古代エジプトの時代からアロエは薬として用いられ,ギリシアの哲学者ソクラテスはドクニンジンを用いて処刑された.現在においても植物は民間伝承薬や生薬として用いられている.また,アヘン由来のモルヒネ(鎮痛作用)やチャ由来のカフェイン(中枢興奮作用),ニチニチソウ由来のビンブラスチン(抗がん作用)など多くの化合物が植物由来の医薬品として用いられている.

解説

乳酸発酵と乳酸ポリマー発酵のメタボリックケミストリー  /  松本 謙一郎, ジョン マサニ・ンドゥコ, 田口 精一

Page. 448 - 456 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
生物史上初めて乳酸が微生物細胞内でポリマーの形で合成された.自然界になかった“乳酸重合酵素”の開発がもたらしたブレークスルーである.これを契機に,伝統的な“乳酸発酵”から“乳酸ポリマー発酵”という新しい概念が誕生することになる.本稿では,「炭素モル濃度」という尺度を導入した「メタボリックケミストリー」の切り口から,両発酵の化学量論的考察を加えた.今後,メタボロミクス分野で議論するうえで一つの化学的指標を与えるであろう.

亜臨界水抽出法を用いた食品加工への応用の最近の進歩  /  衛藤 英男

Page. 457 - 461 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
亜臨界水抽出法は,水に物質を入れてから,水温100度から300度の範囲で,3~8 MPaの圧力にすると,反応容器内は液体状態になり,加水分解反応を起こし,また水が有機溶媒の性質をもち,多くの成分を抽出することができる.そこで,産業廃棄物や食品廃棄物などの処理後,微生物を加えることによりメタノールやメタンガスなどに変換可能なので,新たなエネルギーの生産技術として注目されている.また,この抽出法は,食品中のタンパク質や多糖類の加水分解やアミノ・カルボニル反応を起こすため,新しい食品が生まれる可能性があり,新食品加工法として注目されている.最近の食品加工への応用と現在開発中の緑茶の連続式亜臨界水抽出について解説する.

植物共生科学の新展開と農学研究におけるパラダイムシフト  /  池田 成志, 鶴丸 博人, 大久保 卓, 岡崎 和之, 南澤 究

Page. 462 - 470 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
植物共生科学は植物と共生微生物(群)の相互作用の解明を目的とする基礎科学であるが,当該分野の進歩は生命科学の幅広い諸分野に大きな影響を及ぼす.本稿では,植物共生の生態学的意義について解説した後,有用微生物の探索・選抜や機能解析,微生物ゲノム解析の進歩,植物における有用微生物制御系の発見,植物共生系の網羅的分析技術の開発,施肥条件や光環境を通した共生微生物制御,共生科学的視点からの「おいしさ」の科学的解明などの最近のトピックスと,関連する応用科学分野での今後の新たな研究展開の可能性について私見を紹介したい.

マスト細胞活性化機構の解析から新たなアレルギー治療薬へ  /  安藤 智暁, 川上 敏明

Page. 471 - 477 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
マスト細胞が活性化することによって引き起こされる病態が,アレルギー疾患の枠を超えて新たな注目を浴びている.これらの疾患と治療をつなげるには,病態を反映した適切な動物モデルの存在と,マスト細胞の活性化機構の詳細な解析,それに臨床からのフィードバックが欠かせない.近年,網羅的な遺伝子発現レベルでヒトとの類似性を示したアトピー性皮膚炎モデルにおいて,マスト細胞の関与が示されたり,histamine releasing factorなどの新しい標的分子が報告されたりするなど,マスト細胞を標的とする治療戦略の可能性はますます拡がりを見せている.

セミナー室

2. 米の澱粉粒のライブ観察  /  川越 靖

Page. 478 - 482 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
日常生活で身近な物質の澱粉については,このセミナー室の連載でも明らかなように,生合成と分解,物性,産業利用など幅広い分野で活発な研究活動の歴史がある.今後も新たな発見や産業利用における発明は続くと予想される.ところが意外なことに,澱粉生合成の場である細胞内小器官(オルガネラ)のアミロプラストはこれまであまり研究対象になっていない.そのため,アミロプラストの構造や分裂・発達の様式は不明な点が多い.この理由として,アミロプラストは単離・精製することが難しい,葉緑素を含まないため蛍光顕微鏡での観察が難しい,また葉緑体と同じ類のプラスチドとして認識されていたことなどが挙げられる.一方,観察が難しいとされていたオルガネラについて,共焦点レーザー顕微鏡と蛍光タンパク質の開発により詳細な観察が容易になった.イネは組換え体を作りやすいため,胚乳細胞のアミロプラストも蛍光タンパク質を利用してライブ観察(生きた細胞の観察)が可能になった.その結果,アミロプラストの分裂様式や内部構造の詳細が明らかになっただけでなく,澱粉粒合成の仕組みについても全く予期していなかった研究成果が得られつつある.このセミナー室では,アミロプラストのライブ観察から見えてきた複粒型の澱粉形成の仕組みを紹介する.

3. 統計検定を理解せずに使っている人のために III  /  池田 郁男

Page. 483 - 495 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
1回目は,母集団,標本,母分散,母標準偏差,標本分散,標本標準偏差,不偏分散,不偏標準偏差について主に記述した.2回目では,パラメトリック検定の基本,標準誤差,2群間の検定,t検定の原理,有意水準,両側検定,片側検定,paired と unpaired t 検定の違い,等分散性の検定,ノンパラメトリック検定の原理や利点,欠点について述べた.最終回は,パラメトリック検定の多重比較(3 群以上の検定),一元配置分散分析,二元配置分散分析を中心に記述する.内容がしだいに複雑になることはお許しいただきたい.

「化学と生物」文書館

応用微生物研究所と微生物遺伝学の誕生秘話  /  田中 寛, 吉川 博文, 河村 富士夫

Page. 496 - 499 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
応用微生物研究所が日本学術会議の勧告により東京大学に設置されたのは,戦後の余韻もまだ残る1953(昭和28)年7月28日のことである.この際の目的は,「わが国の生産工業の一大部門である微生物利用工業の推進を図る」ことであり,「応用微生物の研究を行うとともに広く有用菌株の蒐集保存および配布を図る」ことであった.設立にあたっての紆余曲折を今は知る由もないが,小石川の東大植物園内に設置する案もあったようである.また,各省庁に所属する多くの関連研究所との密接な連携のうえに設立された経緯については,初代所長となられた坂口謹一郎先生の遺された文献がいくつかあるのでそちらを参照されたい.

生物コーナー

サツマイモの大害虫イモゾウムシの根絶をめざして  /  青木 智佐, 新見 はるか, 松山 隆志, 金城 邦夫, 熊野 了州

Page. 500 - 506 (published date : 2013年7月1日)
概要原稿
リファレンス
現在,地球上にはおよそ160万種の生物が生息するとされている.昆虫はその60~70%を占め,80~100万種が記載されているが,未記載のものも含めると,1,000万種をゆうに超えるのではないかと言われている.一方,日本で記載されている昆虫は約3万種である.そのような昆虫のうち,「人間生活に害や不快感を与える小動物の総称」として“害虫”が存在する.全世界の害虫の種数は8,000~10,000種(昆虫全体の1%以下)と推定され,私たちの国では約2,600種の昆虫が農林業害虫としてリストアップされている.また,外国から侵入し,新しい土地に住み着いた昆虫を帰化昆虫と呼ぶが,それらが害虫だった場合は“侵入害虫”となる.日本において侵入害虫が問題となってきたのは,明治維新以降である.開国して,江戸時代の鎖国政策から開放政策に転じ,諸外国と人・物資の交流が盛んに行われた結果,人や農作物,苗木に付着して侵入害虫がやってきた.