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注目記事

世界の卵研究はどこへ行く  /  八田 一
光質が根粒菌の感染を制御する  /  永田 真紀, 鈴木 章弘
フィトクロムシグナリングを介した根粒形成のメカニズム
「超微細生化学反応系」技術の最前線  /  兒島 孝明, 中野 秀雄
スポーツ医学的観点からのアミノ酸機能  /  下村 吉治, 北浦 靖之
分岐鎖アミノ酸(BCAA)を中心として

化学と生物 Vol.52 (2014) No.3

全文PDF :

巻頭言

人間はクローンがお好き  /  高山 誠司

Page. 135 - 135 (published date : 2014年3月1日)
冒頭文
リファレンス
京都府の南端にある自宅から奈良県生駒市にある大学まで毎朝車で通勤している.国道163号線沿いに見える風景は,東京新宿育ちの私の目には至ってのどかな田園風景に映るのだが,最近どうも落ち着かないのだ.一見自然にあふれているようでいて,実はとても人工的で多様性がないのだ.ちょうどこの原稿を書いている時期は,道路沿いの川岸の段差のある田んぼでは黄色の稲穂が頭をもたげていて,脇の土手には真っ赤な彼岸花が咲いている.近頃この周辺で植えられているイネは温暖化の影響もあって元は九州生まれのヒノヒカリという品種だ.以前奈良県の農業試験場で見せてもらったが,このイネの純正品種はほかのイネ品種とは絶対に交雑しないように,「原々種」なるものが周囲を何重もの「原種」に囲われる形で栽培維持されている.

今日の話題

光質が根粒菌の感染を制御する  /  永田 真紀, 鈴木 章弘

Page. 136 - 138 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
多くのマメ科植物は根粒菌との共生の場である根粒を形成する.根粒菌は,空気中の窒素をニトロゲナーゼ系によりアンモニアへ還元し,窒素源として宿主植物へ供給している.一方,宿主植物は,光合成で固定した産物を炭素源として根粒菌へと供給している.このことから,植物へ照射される光の量が共生関係成立にとって大事であることは容易に想像がつく.それでは光の質についてはどうなのだろうか? 本稿では光の質が根粒菌とマメ科植物の共生へ与える影響について,先人や私たちの研究について概観する.

ヒトゲノムの機能解明に向けたENCODEの試み  /  梶山 和浩, 林崎 良英, 川路 英哉

Page. 139 - 142 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
ヒトゲノムを構成する全塩基配列の解明により,生命現象を分子レベルで理解するための基盤が築かれた.今やさまざまな疾患の原因をゲノムレベルで議論できるようになり,細胞分化や免疫機構などの生命現象の分子基盤をも解き明かされつつある.一方で,ヒトゲノムそれ自体に対する理解は限定的であり,(1) 配列情報をもとに予測されたタンパク質コード遺伝子の総数は25,000個程度で,線虫のような単純な生物やほかの哺乳類のそれと大差がないこと,(2) ゲノムの半数近くの領域は特定の配列が繰り返し現れる反復配列であること,さらに (3) ゲノムの98%もの領域はタンパク質の構造情報を担っていないことなどを明らかにするにとどまった(1).ヒトゲノムの大部分の領域が担っている役割については,その塩基配列だけからは解き明かすことができなかったのである.

スポーツ医学的観点からのアミノ酸機能  /  下村 吉治, 北浦 靖之

Page. 143 - 144 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
ヒトが運動するとエネルギー代謝が著しく亢進する.このエネルギー代謝は酸素消費量に反映され(1),健康な成人の酸素消費量は運動により安静時(およそ250 mL/分)の10倍にも増加する.さらに,よくトレーニングされたアスリートでは20倍にも増加することが知られている.エネルギー代謝の基質としては,糖質と脂質が中心的に利用されるが,亢進したエネルギー代謝ではその生理状態に応じて全エネルギーの3x{301c}18%がタンパク質やアミノ酸から供給されるようである(2).したがって,アミノ酸も重要なエネルギー源である.エネルギー源になりやすく筋肉で直接代謝されるアミノ酸としては,タンパク質合成に必要な20種類のアミノ酸のうち,ロイシン,イソロイシン,そしてバリンの分岐鎖アミノ酸 (Branched-chain amino acids;BCAA) が知られている.

リン欠乏条件下で必須の機能をもつ糖脂質グルクロノシルジアシルグリセロールの発見  /  岡咲 洋三, 斉藤 和季

Page. 145 - 147 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
リン (P) は窒素,カリウムと並ぶ植物の必須栄養であり,リン鉱石を含む肥料は農作物の生産に不可欠である.日本はこのようなリン鉱石をほぼ全量輸入に依存しているが,良質なリン鉱石は地球上に偏在しておりレアメタル同様に国家的な戦略物資となりつつある(1).したがって,植物のリンの同化や利用にかかわる機構を理解することは,肥料を効率的に利用する作物を作出するための理論や技術の開発に寄与するだけでなく,限られたリン資源への過度の依存を減らすことにもつながる.

新しいトリプトファン代謝経路を放線菌から発見  /  尾崎 太郎, 葛山 智久

Page. 148 - 150 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
放線菌は多様な二次代謝産物を生産する産業上重要な微生物である.ストレプトマイシンやエバーメクチンなど多くの化合物が放線菌から単離され,医薬品などとして利用されてきた.近年のゲノム解析の進展によって多くの放線菌ゲノムも解読されたが,それによって,多くの株が実際に生産している化合物の数よりはるかに多くの数の二次代謝産物生合成遺伝子を有していることが明らかになってきた.そのような機能未知の生合成遺伝子群のなかには,新たな代謝経路のための酵素群をコードし,新規化合物の生合成に関与するものが数多く存在すると期待されるため,近年その解析が盛んに行われている.

古くて新しい調味料「魚醤」  /  宇多川 隆

Page. 151 - 152 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
魚醤は東南アジアを中心に広く使われている調味液で,発酵した魚からアミノ酸やペプチドが遊離し,独特の旨みを呈する.旨みの主役は l-グルタミン酸などの遊離アミノ酸であるが,約20種類のアミノ酸は魚の種類によって組成が異なり,さまざまな味を楽しむことができる.タイの魚醤である「ナンプラー」はアンチョビ(カタクチイワシ)などを,ベトナム魚醤の「ニョクナム」はアンチョビやアジなどが原料として使われている.日本では秋田のハタハタを主な原料とする「しょっつる」や能登のイカの内臓やイワシを使った「いしる」が知られている.これらの魚醤は秋田や石川の郷土料理に用いられているが全国的にはあまり普及していない.一方で,独特の風味をもつ魚醤は,日本でもさまざまな調味料の隠し味として使われており,海外から約5,000 tが輸入されている.

解説

昆虫による植物ホルモン生産とゴール形成  /  鈴木 義人

Page. 153 - 158 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
植物食昆虫が植物に形成するゴールは,色や形の多様性が高く,「どのようにして形成しているのだろう?」と見ているだけで興味をひく.この形成機構にはまだまだ不明な点が多いが,昆虫が生合成する植物ホルモンが関与している可能性が少しずつ明らかになってきた.本稿では,ゴール形成と植物ホルモンについての現在の知見とともに,残された課題について紹介する.また,「見ているだけで興味をひくゴール」の真の形成機構の理解とはどういうものなのかについても,私見を述べたい.

「超微細生化学反応系」技術の最前線  /  兒島 孝明, 中野 秀雄

Page. 159 - 165 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
高速DNAシークエンス解析に用いられているエマルジョンPCRが代表例として示されるように,エマルジョン,リポソームやマイクロデバイス技術を利用した極微量空間中 (pL-nL) で細胞培養やさまざまな生化学反応を行う技術に関する研究が近年盛んになってきている.本稿では,これら技術を利用した,新機能タンパク質分子,機能性核酸分子のスクリーニング・創製手法である in vitro compartmentalization (IVC) 法,ビーズディスプレイ法を中心とし,転写因子結合配列の網羅的解析技術,リポソームを用いた人工生命系,マイクロ流路デバイスを用いた解析技術など,最近の応用例について解説する.

ヒカリカモメガイ由来の発光タンパク質(フォラシン)  /  久世 雅樹

Page. 166 - 171 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
ヒカリカモメガイの発光器には発光タンパク質(フォラシン)があり,活性酸素種 (ROS) の刺激により青色に発光する.フォラシンはROS検出キットとして市販されているにもかかわらず,発光に関与しているクロモフォア(発光を司る化学構造)の構造は不明であった.そのため,フォラシンの遺伝子発現はすでに達成されていたが,クロモフォアを構成することができず発光させることは不可能であった.筆者らはトビイカの発光基質であるデヒドロセレンテラジンがフォラシンの基質であることを突き止めた.本稿では,ヒカリカモメガイの科学研究における長い歴史の紹介と,フォラシンの基質を特定するに至った経緯について紹介する.

セミナー室

12. 地球環境変動と植物の応答  /  伊藤 昭彦, 飯尾 淳弘, 羽島 知洋

Page. 172 - 177 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
本シリーズの初回(彦坂・寺島)で述べられたように,工業活動や森林破壊などの人為起源排出によって,大気CO2 濃度は産業革命前の約280 ppmvから今日の約400 ppmvへと増加してきた.しかし,現時点(2013年7月)において,気候変動枠組み条約などの国際交渉は大幅に停滞しており,実効性のある排出削減のための枠組みを打ち出せていない.近年,リーマンショック後の世界的な経済成長の鈍化により,ある程度までCO2 排出量は抑制されたらしいが,同時に環境対策への投資を減少させたため,結果的には大気CO2 濃度上昇の抑制にはつながらなかった.さらに,シェールガスなど新たな化石燃料の採掘利用が進められており,少なくとも近未来的には現在以上のペースで大気中へのCO2 蓄積が進む可能性が高い.

バイオサイエンススコープ

グローバリゼーションと英語科学論文教育の充実化(前編)  /  峯 芳徳

Page. 179 - 183 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
筆者は1994年よりカナダの名門大学の一つである University of Guelph(グエルフ大学,オンタリオ州)の食品科学科で,学生の教育や研究に携わり20年目となります.その間,日本では国立大学の法人化 ,急激なグローバリゼーション,経済の停滞,社会情勢の急激な変化,中国・インド・ブラジルなど新興国の経済発展など,日本を取り巻く国際環境は予想以上に大きな波にのみ込まれているように感じます.そうしたなか,日本国内においても, 国際化,グローバリゼーションへの対応など,官民挙げて取り組んでいます.その中核をなすのは大学教育現場でのグローバル化であり,その対応が急務であると思われます.

プロダクトイノベーション

大腸菌を用いた遺伝子組換えタンパク質分泌発現技術  /  柳原 芳充, 進藤 康裕

Page. 184 - 188 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
三洋化成工業は,シャンプー・洗剤などで用いられる界面活性剤,紙おむつなどで用いられる吸水性高分子,自動車シート用原料,複写機・プリンターに使うトナーバインダーなどの機能性化学品(パフォーマンスケミカルス)事業を国内外で展開している化学品メーカーである(1).このような化学メーカーがタンパク質発現技術を開発していると聞くと意外に思われる方もいるかもしれない.しかし,当社では独自技術を応用することによるユニークな技術開発(ニーシーズ指向)を推進しており,本稿で紹介する高発現・高汎用性を特長とする大腸菌によるタンパク質分泌発現技術の開発にあたっても,当社の基盤技術の一つである界面活性剤技術の応用が必要不可欠であった.

生物コーナー

ハダカデバネズミ  /  河村 佳見, 宮脇 慎吾, 岡野 栄之, 三浦 恭子

Page. 189 - 192 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
ハダカデバネズミ (naked mole-rat, Heterocephalus glaber, デバ)は,その名のとおり裸で出っ歯の齧歯類である(よく見ると感覚毛と呼ばれる毛がまばらに生えており,正確には無毛ではない)(図1).自然下ではアフリカの角(つの)と呼ばれる領域(エチオピア・ケニア・ソマリア)のサバンナの地下に,大きいものでは数kmに及ぶトンネル状の巣を形成して集団で生息している.暗い地下のトンネルに住んでいるため,デバの目はほとんど見えずわずかに光を感じられる程度である.また,野生のトンネル内では低酸素環境(約7% O2)で生活している.実験室では,4~20個程度のアクリルの箱をトンネルで連結させて飼育している(図2).デバたちはこのトンネル内を前向きにも後ろ向きにも同じスピードで走ることができる.

海外だより

世界の卵研究はどこへ行く  /  八田 一

Page. 193 - 198 (published date : 2014年3月1日)
概要原稿
リファレンス
私は,2013年4月1日から1年間,京都女子大学の在外研究員制度により,カナダのグエルフ (Guelph) 大学で半年,次いでフランスの AgroCampus Ouest に半年間滞在する機会を得ました.在外研究員としての研究テーマは「北米および欧州における鶏卵の生理機能性に関する研究と現状調査」です.この原稿を書いている現在(2013年10月末),グエルフ大学での半年が終わり,10月1日からフランスのレンヌ大学の西,AgroCampus内の国立ミルクと卵の研究所に滞在しています.本稿では,グエルフ大学 Department of Food Science の峯研究室での半年間の滞在記をまとめます.