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化学と生物 Vol.49 (2011) No.8

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巻頭言

社会のための科学  /  塚越 規弘

Page. 515 - 515 (published date : 2011年8月1日)
冒頭文
リファレンス
編集部から巻頭言を依頼されたのが4月初めであった.まずはじめに,東日本大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げる.被災地の復興は力強く着実に進んでおり,この地域の大学,研究所での研究活動が一日も早く正常化されることを願っている.一方,福島第一原子力発電所の事故は大変深刻で,原子炉がいつ収束するか目途がたたず不安な状況が続いている.原発事故は科学技術への過信であり,科学技術の奢りともとられ,科学技術への不信感が一気に噴き出し,科学は「知識のための科学」であるとともに「社会の中の科学」であり「社会のための科学」であることを改めて考えさせられた.

今日の話題

細胞内の酸化還元状態を検知するタンパク質FRETプローブ,レドックスフロール  /  奥 公秀, 阪井 康能

Page. 516 - 517 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
「細胞内の酸化還元状態」という言葉を聞いて,何か心に引っかかるものを感じたならばその感覚は鋭い.本来,酸化還元状態というものは酸化・還元両状態をとりうる個々の物質に対してその両状態の存在比に応じて個別に定義されるものであり,多数の構成因子から成り立つ細胞内の酸化還元状態をまとめて表現するということは無理なことだと思われて当然である.

宿主植物から寄生植物への遺伝子水平伝播の発見  /  吉田 聡子, 白須 賢

Page. 518 - 519 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
通常,遺伝子は親から子へと受け継がれる.しかし,時に生物種を超えて遺伝子が伝播する現象が知られている.これを「遺伝子の水平伝播」と呼ぶ.原核生物ではよく知られた現象であるが,高等植物間ではミトコンドリアや葉緑体遺伝子の水平伝播や,近縁種間のトランスポゾンの伝播などの数例しか知られていなかった.最近,寄生植物が宿主植物から遺伝子を獲得した例が見つかり,高等植物間でも核遺伝子の水平伝播が起こることが示された

乳酸菌の免疫賦活能は菌体の培養温度によって変化する  /  井田 正幸, 出雲 貴幸

Page. 519 - 521 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
我々ヒトをはじめとする生物に備わった免疫系は,「非自己」を認識し,病原体の体内への侵入を防いでいる.しかし,環境汚染や社会背景に起因したストレス,食の欧米化による食生活の変化などにより免疫機能が大きく低下することが知られている.また,加齢も免疫異常をひき起こす大きな原因になると考えられ,加齢による免疫機能の低下に伴い,感染症やがんのリスクが高まるとの報告がある(1).現在,低下した免疫機能を高める方法の一つとして,食による免疫機能の調節が注目されている.

新規膜型テルペン環化酵素の発見  /  伊藤 崇敬, 久城 哲夫

Page. 521 - 523 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
天然物の最大の特徴はその分子構造の多様性であり,それぞれが多様な生物活性や物性を有し,医薬品や材料,またケミカルバイオロジーのツールなどとして様々な分野で利用されている.このような天然物の構造多様性は,その生合成過程によって創出され,天然物の生合成研究により多様性の起源を突き止めることができるとともに,ゲノム中に生合成に関わる酵素をコードする遺伝子を探索することによって,これまで生産が確認されていない未知の天然物の発見も可能となる.

チョコレート・ココアは発酵食品  /  佐藤 清隆, 崎山 一哉

Page. 523 - 526 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
「お菓子の王様」であるチョコレートは,ココアバター結晶の独特な融解挙動のために,室温では硬くても口に入れると速やかに融けて,甘さと苦さとまろやかな香りが広がるおいしさで人々を魅了している.またココアは,栄養満点の飲み物である.いずれも,アオギリ科の植物であるカカオの木から収穫されるカカオ豆が主要な原料である

葉の上に棲む微生物でプラスチックゴミを減らそう  /  北本 宏子, 小板橋 基夫

Page. 526 - 528 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
プラスチックゴミを回収,廃棄,処理する労力とゴミの量を削減するために,自然界の微生物により分解される「生分解性プラスチック」の利用が推進されている.常温で分解されるタイプの生分解性プラスチック製の資材は,屋外で使用した後で回収・処理する手間やコストがかからないため,農業や土木業など,プラスチック製品が環境中に散在し,回収が困難な現場で普及に適している.すでに,マルチフィルム,ポット,結束テープなど,使用期間が短い農業用資材に使われ始めた.その素材の主成分は,ポリブチレンサクシネート(PBS)や,ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)など,ジオール,ジカルボン酸の重縮合によって得られる脂肪族ポリエステルであり,現在,石油から製造されているが,国内の複数の企業では,近い将来,発酵法でつくったコハク酸を主原料に用いて製造する計画がある.そこで,高純度で安価な発酵コハク酸のニーズが高まっている.

解説

広がる植物ペプチドホルモンの世界  /  松林 嘉克

Page. 529 - 534 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
近年,高等植物において新しいペプチドホルモンの発見が相次ぎ,注目を集めている.ペプチドホルモンは,しばしば翻訳後修飾やプロセシング,ジスルフィド結合形成など,ゲノム情報からは予測困難な構造の複雑化を伴うが,それらが生理機能にきわめて重要であることも明確になってきた.受容体の同定も進みつつあり,特にロイシンリッチリピート型受容体キナーゼ(LRR-RK)群に注目が集まっている.高等植物におけるペプチドホルモンの構造的特徴や生理機能について,これまでの知見をまとめた.

神経変性疾患「若年性パーキンソン病」の発症メカニズム  /  松田 憲之, 田中 啓二

Page. 535 - 541 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
パーキンソン病は高い罹患率を示す神経変性疾患であるが,その発症機構については諸説あって,混乱が続いていた.パーキンソン病の大部分は孤発型であるが,一部に遺伝子変異に由来する家族型があり,極端に若年で発症する場合は家族型であることが多い.若年性家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるPINK1とParkinの機能解析の結果,両者が協調してミトコンドリアの品質管理を担う仕組みが明らかになった.もう一つの家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるDJ-1の解析結果と考え合わせると“若年性家族性パーキンソン病はミトコンドリアに対する品質管理の破綻で発症する”可能性が高まってきている.

DNAマーカー育種による萎凋細菌病抵抗性カーネーションの作出  /  八木 雅史, 小野崎 隆

Page. 542 - 548 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
作物を遺伝的に改良し,新しい品種を生み出す育種は,これまでは育種家の経験と勘を頼りに行なわれてきた.ところが,植物の遺伝子レベルでの解析が進むにつれて「DNAマーカー育種」という概念が誕生し,従来の育種を論理的な育種に変える画期的な手法として期待され,全塩基配列の解読されたイネをはじめとした主要作物を中心に精力的に研究が進められている.一方,花きは品目数が多く,一つあたりの生産規模も小さいことから,そうした技術開発は世界的にも進んでいなかった.ここでは,カーネーション萎凋細菌病抵抗性育種において,抵抗性に連鎖したDNAマーカーを開発し,野生種由来の抵抗性を導入した新品種‘花恋(かれん)ルージュ’を育成した経緯を中心に,花きにおけるDNAマーカー・ゲノム研究の現状を紹介する.

痛みの分子メカニズム  /  津田 誠, 井上 和秀

Page. 549 - 554 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
神経がダメージを受けた後に,慢性的な痛み「神経障害性疼痛」を発症することが知られているが,その発症と維持のメカニズムはわかっておらず,未だ疼痛を制圧するには至っていない.最近,中枢神経系を構成する神経細胞とグリア細胞のうち,神経の栄養補給や構造維持などが主な役割とされてきたグリア細胞が,神経活動そのものにも大きな影響を及ぼすことが次々と明らかになり,神経障害性疼痛の発症維持など,神経機能制御におけるその役割に注目が集まっている.ここでは,これらのグリア細胞に注目した研究成果から見えてきた新しい神経障害性疼痛の細胞分子メカニズムを概説する.

セミナー室

化学発光を利用した生理機能の可視化  /  齊藤 健太, 永井 健治

Page. 555 - 559 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
近年の蛍光ライブイメージング技術の著しい発展により,細胞,組織,個体を生きたまま可視化し生命現象を時空間的に理解することが可能となった.しかし,蛍光ライブイメージングが一般的になり観察対象が魚,トリ,マウスといった生物個体に広がる一方で,蛍光観察が有するサンプルへの光毒性や自家蛍光といった問題が顕著になりつつある.その中でホタルに代表される化学発光を用いたライブイメージングにも注目が集まりつつある.化学発光は蛍光と違い外部からの励起光を必要としない.そのため自家蛍光や生物個体に対する光毒性といった問題とは無縁である.このように蛍光に比べて利点のある化学発光であるが,放出するフォトン数が少ないため画像化には長時間の露光(数秒~分のオーダー)を要する.また励起光は必要としないもののルシフェリンなどの発光基質を細胞や組織に導入する必要があるため,動きの速い現象や発光基質を取り込みにくい細胞などの観察には不向きであり蛍光観察ほどには普及していない.ところが最近になって,より明るい化学発光タンパク質が報告されはじめ,またEM-CCDカメラに代表される超高感度CCDカメラの普及もあいまって化学発光でも実時間でイメージングできる時代が到来しつつある.今回は,化学発光を利用したライブイメージングについて筆者らの開発したセンサーを中心に紹介する.

ダイズ根粒根圏からの亜酸化窒素発生機構とその低減化  /  板倉 学, 稲葉 尚子, 池西 史生, 南澤 究

Page. 560 - 565 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
一酸化二窒素(N2O, 亜酸化窒素)は強力な温室効果ガスであるとともに,オゾン層破壊の主要な原因物質である.大気中のN2O濃度は,産業革命以前の270 ppbvから,近年にいたるまでほぼ直線的にその濃度が増加し続け,2009年の世界平均濃度は322.5 ppbに増加し (温室効果ガス世界資料センター:WDCGGの解析による),最近の増加率は年間0.26% である(IPCC第4次評価報告書).京都議定書では,CO2, CH4, N2O などの温室効果ガスについて,2008年から2012年の約束期間で,先進国およびロシアなど市場経済移行国全体で約5.2%,日本は6% 削減させると目標値を立てており,地球環境問題の対策として,大気中へのN2O放出量の削減は必要不可欠となっている.

「化学と生物」文書館

分子生物学の黎明期から植物分子生物学へ  /  大山 莞爾

Page. 566 - 572 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
1960年代半ば,大阪で富沢純一先生(元国立遺伝学研究所所長)の講演会が開かれた.確かスライド1枚で1時間講演されたことを記憶している.当時院生だった筆者には,話の内容は難しく理解できなかったが,新しい学問領域の胎動を感じた.この前後に,Jacob-Monodが提唱したオペロン説について書かれた『細菌の性と遺伝』(F. Jacob, E. Wollmann著/富沢純一,小関治男訳,1963,岩波書店)や,これと比べると多数のイラストが入り内容もわかりやすい J. D. Watson の『Molecular Biology of Gene』の第1版が出版されるなど,分子生物学が大きな広がりを見せつつあった.

鳥類は嗅覚を使うのか?  /  横須賀 誠

Page. 573 - 579 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
一般に,鳥類 (Aves, bird)(以下,トリ)は視覚と聴覚に優れ,嗅覚は発達していないとの印象をもたれている.これは,獣医学や動物学の分野においても同じである.なぜなのか? 散歩時に匂いの情報収集に余念がないイヌは日常の風景であり,尿などの匂いで縄張りを主張する哺乳類を紹介するTV番組は度々放送され,優れた嗅覚をもつ齧歯類は料理人となってアニメ映画の主人公になっている.一部ではあるが,トリも帰巣や餌・個体の識別などに嗅覚を利用していることが行動学的に予想されているが,日常見かけるトリの行動に“嗅覚”を意識させられることはほとんどない.むしろ,彼らの優れた視覚や聴覚に依存した空間認知や繁殖行動が際立っているため,嗅覚は発達していないという印象を我々に与えているのであろう.

農芸化学@HighSchool

大根由来アミラーゼを利用した新しい焼酎開発  /  有延 龍志, 岸本 裕成, 沢津橋 由香, 新原 絵美, 山角 愛, 丹治 誠也, 松元 克暢

Page. 580 - 582 (published date : 2011年8月1日)
概要原稿
リファレンス
本研究は,平成22(2010)年度日本農芸化学会大会(開催地 東京)において開催された高校生による第5回「ジュニア農芸化学会」で発表され,その内容がきわめて高い評価を受けた.焼酎は,我が国を代表する伝統的アルコール飲料である.その醸造工程に着目し,桜島ダイコンに発酵原料と糖化酵素を求め「大根焼酎」を開発した点はユニークであり,農芸化学に相応しく興味深い研究内容となった.