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(published date : 2012年9月1日)
重要生薬の活性成分に対するモノクローナル抗体を作成し,簡便かつ精確な分析法の開発,新抗体染色法であるイースタンブロットやノックアウトエキスの作成に成功.また,小型化抗体遺伝子による新育種法を確立した.
タンパク質などの高分子化合物に関わる研究を遂行するにあたり,モノクローナル抗体 (Mab) なしでは研究の展開は不可能といっても過言ではなく,したがって数限りないMabが市販されているのが現状である.しかし生薬成分のうち,低分子活性成分に対するMabの作製例は20年近く前には皆無であったのでMabの作製研究をスタートさせた.低分子化合物(ハプテン)自体は免疫されないためキャリアータンパク質と結合させる必要があった.しかしハプテン-キャリアータンパク質の合成が必ずしも容易ではないケースも少なくない.また,ハプテン分子の結合数は動物へ免疫する場合たいへん重要なファクターとなるが,抗原であるハプテン-キャリアータンパク質コンジュゲート中のハプテン分子の結合モル数の確定法が確立されていなかった.このため免疫化の再現性が悪く,再現性の良好な方法が望まれていた.そこでわれわれは matrix-assisted laser desorption-ionization TOF mass spectrometry (MALDI-TOF MS) を導入し,ハプテン-キャリアータンパク質コンジュゲートの検出とそれによるハプテン数の確定方法を確立し,免疫化を確実なものとした.たとえばColeus forskohliiの強心成分であるforskolin(1)やアヘンアルカロイドであるコデインなど(2),大麻の最も強い幻覚成分である tetrahydrocannabinolic acid(3),で成功し,Mab作成の足がかりを作った.特に通常分析に手間がかかる薬理活性配糖体に的を絞り開発を進めてきた.現在までにステロイダルアルカロイド配糖体であるsolamargine(4), 薬用人参のginsenoside Rb1(5), Rg1(6), Re(7), 甘草のglycyrrhizin(8, 9), サフランのcrocin(10), 大黄・センナの sennoside A(11), B(12), 柴胡の saikosaponin a(13), 芍薬のpaeoniflorin(14)黄x{82a9}のbaicalin(15)等配糖体,また,黄連・黄檗のberberine(16), 附子のaconitine(17), クソニンジン (Artemisia annua) のartemisinin(18) などに対するMabを作製し,高感度のenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) を確立した.また,そのほかの応用として「イースタンブロティング」と命名した抗体染色法(当初はウエスタンブロティングと仮称)を開発した(9, 19~24).さらに配糖体のワンステップ単離が可能なイムノアフィニティーカラムを開発し,それにより抗原成分のみを除去した「ノックアウトエキス」の作製法を開発した(24~28).作製したMabが蓄積されるにつれて,小型化抗体 (scFV) 遺伝子をクローニングする例も増え,そのうちの一つの遺伝子をホスト植物へ導入し有効成分の高含有種の作出にも成功した(29).これらについて概説する.