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(published date : 2012年5月1日)
アミノ酸,糖類,そしてビタミンなどの食物中の栄養素は,小腸から吸収され肝臓に運ばれた後,全身の細胞へと血流に乗って運ばれ利用される.特に,ビタミンB類,ビタミンCをはじめ水溶性栄養素は,細胞を取り囲む細胞膜を自由拡散では通過できないため,小腸から吸収されるには,これらを選択的に輸送するトランスポーター蛋白質が必要である.たとえば,ビタミンB1は小腸上皮細胞に存在するTHTR-2という名のトランスポーターによって体内へ輸送されており,この蛋白質の遺伝子を欠損させたマウスでは,食物中のビタミンB1が吸収されずその欠乏症が発症する(1).
一方,脂溶性ビタミンであるA, D, E, Kなどは細胞膜の脂質に自由に溶け込むため,自由拡散で吸収され,全身の細胞へと循環すると長い間考えられてきた.しかし最近,ビタミンEの吸収に,小腸上皮細胞に発現するNPC1L1とABCA1の2つの脂質トランスポーターが関与していることが示唆され,脂溶性ビタミンの吸収や体内循環にも選択的な輸送体が必要であると考えられ始めている.本稿では,さまざまな脂溶性化合物を輸送する ABC (ATP Binding Cassette) 蛋白質と名付けられた一群のトランスポーターの生理的役割をまず紹介し,特に動脈硬化症を防ぐ上で重要な,コレステロール恒常性維持の鍵を握るABCA1について説明する.