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化学と生物 Vol.49 (2011) No.6

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巻頭言

世界に冠たる農芸化学  /  北本 勝ひこ

Page. 363 - 363 (published date : 2011年6月1日)
冒頭文
リファレンス
明治44年,東京大学農芸化学科の鈴木梅太郎博士がビタミンB1を発見してから今年で100年になる.これを記念して,いろいろな催しが企画されている.農芸化学の成果としては,この他にも藪田貞治郎博士と住木諭介博士による「稲の馬鹿苗病菌からジベレリンの単離」,田村學造博士による「火落酸(メバロン酸)の発見」など,この120年余の間になされた輝かしい成果は枚挙にいとまがない.最近の成果としては,高脂血症の薬スタチンや免疫抑制剤タクロリムスがあり,前者は世界で現在3,000万人が使用しているといわれている.まさに,「世界に冠たる農芸化学」である.

今日の話題

モデル植物シロイヌナズナはどのように自家受精を行なうようになったのか  /  土松 隆志, 清水 健太郎

Page. 364 - 366 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
植物科学の分野で現在最もよく用いられている研究材料は,おそらくシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) だろう.シロイヌナズナはアブラナ科シロイヌナズナ属に属する一年草である.ヨーロッパ・中央アジア・北アフリカを中心に自生するが,日本にも帰化しており,春先から初夏にかけて路傍で見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれない.

細菌毒素100年の謎を解く  /  中平 久美子, 柳原 格

Page. 366 - 367 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
常温・常圧の世界で暮らす我々にとっての病原細菌は,その多くが熱感受性である.したがって,芽胞や一部の耐熱性病原因子を除き,「加熱調理すれば食中毒(病気)にはならない」のが普通である.しかし,タンパク質毒素の中には,いったん加熱失活の後,さらなる加熱により再活性化する毒素が知られている.その1つが腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒である.

消化管タイトジャンクションバリア機能を調節する食品成分  /  鈴木 卓弥

Page. 368 - 370 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
消化管の粘膜表面は,常在菌や食事由来抗原に絶えず曝露されている.この粘膜面は,テニスコート1.5面分にも相当する表面積をもち,1層の上皮細胞により覆われている.つまり,消化管において,からだの内と外を隔てているのはわずか1層の上皮細胞層であり,この上皮細胞は管腔内に存在する異物の侵入を厳密に制限している.この機能は消化管バリア機能と総称され,隣接する上皮細胞どうしを強固に接着するタイトジャンクション(TJ),杯細胞から分泌され粘膜表面に粘液層を形成するムチン,パネート細胞や吸収細胞から分泌され外来菌の排除に役割を果たす抗菌ペプチドなどに統合される.ここでは,筆者らが近年注目しているTJのバリア機能と食品成分との関わりについて紹介する.

シロアリの女王フェロモン  /  松浦 健二

Page. 370 - 372 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
アリやハチ,シロアリのように複数の個体が協同で繁殖し,繁殖する個体と繁殖しない個体という分業が見られる状態を真社会性(eusocial)と呼ぶ.繁殖分業の確立は,昆虫の社会進化における最も重要な要素である.働きアリや働きバチ(通常ワーカーと呼ぶ)は自分自身の繁殖を犠牲にして女王の繁殖を助け,女王の繁殖を介して間接的に自分の遺伝子を次世代に伝えている.多くの真社会性の生物では,繁殖個体が死亡した場合などには別の新たな繁殖個体が出現する.たとえば,ミツバチの女王が死亡すると,ワーカーの卵巣が発達して産卵を開始する.シロアリの創設女王が死亡した場合,あるいはコロニーが成長してワーカーの労働力に対して産卵速度が見合わなくなった場合,新たな女王がコロニー内のメンバーから分化して繁殖を行なう.これは逆の言い方をすれば,十分な繁殖能力をもつ女王は,他の個体が繁殖することを何らかの方法で抑制していることを意味する.

ビタミンKの代謝的活性化と骨作用の分子機構  /  岡野 登志夫, 中川 公恵, 廣田 佳久, 澤田 夏美

Page. 372 - 374 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
ビタミンKは,血液凝固因子の活性化に必要なビタミンとして発見された.その後,血液凝固因子などのビタミンK依存性タンパク質分子の特定のアミノ酸配列中のグルタミン酸残基の γ 位炭素にカルボキシル基を導入する反応(グラ化)を触媒する γ-グルタミルカルボキシラーゼの補因子であることが明らかとなった.グラ化されたタンパク質はカルシウム結合能を獲得し,血液凝固のみならず骨形成や骨折治癒(1),動脈石灰化,細胞増殖・分化など様々な生命反応に関与することが知られている.納豆摂取などのわずかな例外を除くと,通常の食事から供給される主なビタミンKはフィロキノン(ビタミン K1, PK と略称)である.しかし,我々の組織中に最も高濃度で存在するのはメナキノン-4(ビタミン K2, MK-4 と略称)である.この理由は,体内でPKがMK-4に代謝変換されると考えると理解しやすい.最近,筆者らは哺乳類組織内でPKがMK-4へ変換されることを科学的に証明し(2),この反応に関与する新規酵素UBIAD1を同定した(3) ので紹介する.

オリゴ糖でカルシウム補給  /  村上 洋, 桐生 高明, 木曽 太郎, 中野 博文

Page. 375 - 376 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
カルシウムは,摂取量が所要量を下回る数少ない栄養素の一つである.『日本人の食事摂取基準』2010年版(厚生労働省)によれば,18歳以上の成人日本人のカルシウム推定平均必要量(EAR)は,男性612 mg/day,女性546 mg/dayであるのに対し,同じく平均摂取量は男性511 mg/day,女性499 mg/dayにすぎない.現在日本では,男性の約97%,女性の約85% がカルシウム不足の状態にあると推計される.カルシウム摂取量が不足しても血清中のカルシウム濃度は常にほぼ一定(1.1~1.3 mM)に保たれる仕組みが存在するが,骨からの溶出が進むことで細胞質内のカルシウム濃度が高値となる「カルシウムパラドックス」をひき起こし,様々な生活習慣病(高血圧,糖尿病など)の罹患リスクを増大させるといわれている

解説

バクテリアのシリコンバイオサイエンス  /  黒田 章夫, 廣田 隆一, 石田 丈典, 池田 丈

Page. 377 - 384 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
バクテリアがシリコンを蓄積する生理的な意味は,胞子の表面にシリカ層をつくり出すことによって耐酸性を高めていることであった.バクテリアのシリコン代謝の解析を通して,偶然にも2001年のアメリカ炭疸菌バイオテロの謎の一部を解くことになった.ハイテク技術に不可欠のシリコンとバイオが結びついたシリコンバイオサイエンスの応用展開が期待される.

生体分子イメージングでみる肥満脂肪組織炎症と血栓形成過程  /  西村 智, 長崎 実佳

Page. 385 - 391 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
各種生活習慣病の背景には,慢性炎症を基盤とした異常な細胞間作用が生体内で生じていることが最近明らかになってきた.一光子・二光子レーザー顕微鏡を用いた「生体分子イメージング手法」を肥満脂肪組織に適用して,肥満脂肪組織では脂肪細胞分化と血管新生が空間的に共存して生じ,また脂肪組織微小循環では炎症性の細胞動態が生じていることが示された.肥満脂肪組織にはCD8陽性T細胞が存在し肥満・糖尿病病態に寄与していた.さらに,この手法を用いて明らかになった生体内の血栓形成過程の詳細や,iPS由来の人工血小板の機能解析の試みなども紹介する.

アレルギー疾患と母乳中のTGF-β  /  中尾 篤人

Page. 392 - 397 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
ヒト母乳には免疫系を調節する重要なサイトカインである transforming growth factor (TGF)-β が豊富に含まれているが,その生物学的意義は不明である.最近の研究は,母乳中TGF-βは,腸管粘膜系が未発達な乳幼児期において経口的に摂取されるタンパク質に対する過剰な免疫反応(アレルギー反応)を防ぐための自然の阻害因子として働いている可能性を示唆している.

プロリン異性化酵素Pin1阻害剤の探索  /  森 正, 内田 隆史

Page. 398 - 405 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
Pin1は,リン酸化セリン(トレオニン)-プロリンのペプチド結合のcis/trans 構造の変化に関わるプロリン異性化酵素である.Pin1ノックアウトマウスの解析から,Pin1と多様な疾患との関連が解明された.たとえば,Pin1が高発現している癌患者は予後が悪いので,Pin1の阻害剤は抗癌剤として期待される.Pin1の阻害剤探索のハイスループット化に成功したことにより,天然物資源からの癌やその他の疾患の創薬の可能性に期待が高まっている.

新しいNF-κB阻害剤DHMEQ  /  梅澤 一夫, 須貝 威

Page. 406 - 414 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
NF-κBは免疫や組織の安定性保持に重要な転写因子であるが,過剰に活性化されると多くの炎症性疾患やがんの促進因子となる.天然物からの分子デザインにより発見した(2S,3S,4S)-dehydroxymethylepoxyquinomicin (DHMEQ) は NF-κB構成タンパク質に特異的に共有結合してDNA結合を阻害する.多くの動物実験で毒性を示さず,抗炎症活性,抗がん活性を示す.最近,酵素反応によって鏡像異性体を効率良く分離する手法が見いだされ,医薬開発にさらに展望が開けてきた.

セミナー室

農耕地土壌起源のN2O排出量算定方法  /  澤本 卓治, 秋山 博子

Page. 415 - 419 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
一酸化二窒素(亜酸化窒素:N2O)は現在大気中に約320 ppb(10億分の320)の濃度で存在する強力な温室効果ガスであり,オゾン層破壊にも寄与している.本セミナー室の第1回では,生物圏の窒素循環のなかで微生物のはたらき(主に硝化と脱窒)によってN2Oが生成しており,産業革命以降の大気中のN2O濃度の増加は農業〔施肥土壌および家畜排せつ物の処理過程(堆肥化など)〕とそれに関係する土地利用変化によって生じていることが示された.さらに,農耕地土壌からのN2O排出モニタリング手法や排出実態,その削減方法について解説された.今回は,農耕地土壌からのN2Oの排出量の算定方法を中心に紹介する.

バイオレメディエーションの実際:油汚染土の浄化  /  千野 裕之

Page. 420 - 425 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
油汚染は土壌汚染の一例であり,その原因が,鉱油類を含む土壌により,その土地や周辺を利用したり,今後利用しようとする者に対して,油臭や油膜による生活環境保全上の支障を生じさせていることをいう.日本における油汚染は他の土壌汚染と異なり,特定の物質を対象とせず,鉱油類全体を人の感覚をもとに総体的に捉え,油臭・油膜の有無を判断する.これは,鉱油類には様々な種類が存在し,成分も多様で,かつ環境中で性状も変化するため,油臭・油膜の程度を一律に捉えることが困難なためである.

「化学と生物」文書館

二成分制御系研究を振り返って(前編:組換えDNA時代)  /  水野 猛

Page. 426 - 430 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
二成分制御系は環境シグナル検知・情報伝達機構の総称であり,1980年代から現在に至るまで精力的な研究が続いている.その間,日本では主に農芸化学分野の多くの研究者がその中心を担ってきた.その一人として,ここにその研究の個人史をまとめる機会を得たことを光栄に思う.ただ,その時々の最新情報をまとめる一般的総説と異なり,このような文章では幅広い年代の読者と時間軸を共有する必要がある.さもないと,「昔々あるところに……」といった単なる昔話に終わってしまう可能性が高い.そこで,二成分制御系に関する流れを分子生物学の流れの中に位置付けることにより,読者との間で時間軸を共有することを心がけた.また,文章の構成上他の研究者の成果にほとんど触れない非礼をあらかじめお詫びする.

植物二次代謝産物と農薬化学  /  水谷 純也

Page. 431 - 434 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
もう半世紀以上も前になるが,筆者は当時の北海道大学農学部農芸化学科農産製造学講座の大学院学生として,故小幡彌太郎先生の下で脱脂大豆を酸分解して調製したアミノ酸液が出す硫化水素とジメチルスルフィド発生のしくみを調べていた.小幡先生は,まだガスクロマトグラフや質量分析計などの分析機器が登場する以前に,においの研究に取り組んでおられた先駆者のお一人である(写真1).先生はご自分が得意とするハナリーゼ(鼻を使ってにおい成分を分析する)によって,魚のにおいやビールの日光臭などを嗅ぎ分け,研究室の学生たちにそれを実証するようにとテーマとして与えた.一方,与えられた学生のほうは,におい成分を単離同定してにおいの本体を証明するため日夜悪戦苦闘していた.当時は,同定するには,におい成分を結晶性誘導体に導き,標品との混融試験や赤外線吸収スペクトルを比較するのがオーソドックスなやり方であった.

農芸化学@HighSchool

ショウジョウバエの摂食行動  /  立野 志生, 尾方 賢悟

Page. 435 - 437 (published date : 2011年6月1日)
概要原稿
リファレンス
本研究は,平成22(2010)年度日本農芸化学会大会(開催地東京)での「ジュニア農芸化学会」において発表された.動物の摂食行動を支配するメカニズムの研究は農芸化学の主要な研究分野である生命科学や食品開発にも直結するテーマであり,多くの参加者の注目を集めた演題である.本研究では,ショウジョウバエを用いて匂いと摂食行動の相関を解析した.疑問点を解明するために様々な工夫を行なっており,アイデアに溢れた非常に興味深い研究である.