Vol (Year) :

HOT NEWS [ 12 total ]  -  View All

※表紙をクリックしてください。

化学と生物 Vol.49 (2011) No.9

全文PDF :

巻頭言

食品成分表,食育,そして農芸化学  /  野口 忠

Page. 587 - 587 (published date : 2011年9月1日)
冒頭文
リファレンス
2010年11月に日本食品標準成分表が5年ぶりに改訂され,『日本食品標準成分表2010』(以下,食品成分表)が出版された.同時に1986年以来,ほぼ四半世紀ぶりに日本食品アミノ酸成分表も改訂され,『日本食品アミノ酸成分表2010』となった.1955年に掲載項目数14,収載食品数538でスタートした成分表も,項目数50,収載食品数1,878という充実した姿になった.先達の見識と努力に敬意を表するばかりである.

今日の話題

植物病原性カビの新たな侵入戦略  /  晝間 敬, 吉野 香絵, 高野 義孝

Page. 588 - 589 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
植物病害による世界の農業生産被害は全収量の約15% と言われており,その病害の多くは糸状菌(カビ)が犯人である.したがって,植物病原性カビの攻撃から作物を保護することは,農業上非常に重要であることは明白である. カビが植物に感染するためには,植物表層に降り立ったカビの胞子が発芽した後,なんらかの方法で植物組織内へと侵入していく必要がある.では,病原性カビはどのようにして植物内に侵入していくのであろう? ある種のカビは胞子を発芽させ,その発芽管を伸ばしながら植物表層にある気孔を探り当て,そこから潜り込んでいくことが知られている.きわめて洗練された技である.しかし,多くの植物病原性カビはもう少し手荒い手段をとる.胞子は発芽した後,付着器と呼ばれるドーム状の特殊細胞を形成し,この付着器を用いて植物細胞壁を突き破り,侵入菌糸を形成していく.

腸間膜リンパ節樹状細胞による経口免疫寛容の誘導機構  /  佐藤 克明

Page. 590 - 591 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
樹状細胞は樹状突起を有する白血球であり,複数のサブセットから構成される(1).病原性微生物などの外来抗原の末梢組織への侵襲により惹起された炎症状態では,樹状細胞は活性化して多様なサイトカインを産生するとともに,ナイーブT細胞に抗原刺激と活性化を補助する共刺激を与えてエフェクターT細胞を誘導し,自然免疫と獲得免疫をつなぐ最も強力な抗原提示細胞として免疫系を賦活化する(1).一方,定常状態では,末梢組織において樹状細胞は抗原不応答性T細胞や免疫抑制機能を有する制御性T細胞の誘導・増幅を介して免疫寛容を誘導すると考えられている

高等植物において特定の遺伝子を標的として改変する技術  /  刑部 敬史, 刑部 祐里子, 土岐 精一

Page. 592 - 594 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
遺伝子の機能を解析するとき,その遺伝子を特異的に破壊したり,あるいは機能を改変するために部分的に遺伝子の改変を行なうことが必要となる.こうした標的遺伝子特異的改変,特に標的遺伝子組換え(遺伝子ターゲッティング,GT)は,微生物では研究室内で日常的に用いられている.ゲノム上にDNA二重鎖切断(DSB)が生じたとき,2つの主要修復経路,相同組換え(HR)修復および非相同末端結合(NHEJ)修復によりつなぎ直される.GTは,標的遺伝子を改変させるための鋳型DNAを宿主細胞へ導入し,その鋳型DNAが標的遺伝子上に生じたDSBのHR修復に利用されることで成立する技術である.しかし,HR修復は細胞周期のごく限られた期間(S~G2期)で機能する経路であることに加えて,DSB末端の単純な再結合反応によるNHEJ経路が高等動植物では優勢な修復経路であるため,GTの頻度はきわめて低い(導入したDNA断片が宿主ゲノム上のランダムな場所に挿入される効率の1,000分の1から10,000分の1である).このため,高等真核生物では,マウスES細胞など一部の実験材料を除き,GTはきわめて困難な技術であった.

ヒトと虫の成長を調節する共通のホルモン  /  溝口 明

Page. 594 - 596 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
ヒトの成長を調節する重要なホルモンの一つであるインスリン様成長因子(IGF)とよく似たホルモンが,昆虫にも存在することが最近発見された.本稿では,この新規昆虫ホルモンの発見の意義について紹介するが,まずIGFの説明から始める必要があるだろう.

カメムシをエノコログサのエンドファイト(内生菌)で防除する  /  中島 廣光, 石原 亨

Page. 596 - 598 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
カメムシとは,カメムシ目に属する昆虫のうち陸地に生息する昆虫の総称で,外観がカメの甲羅を連想させることからカメムシと呼ばれている.家屋に侵入して悪臭を放つものがカメムシの一般的な認識であるが,すべてのカメムシが悪臭を放つわけではない.近年,カメムシの加害により生じる斑点米の混入によって,米の検査で等級格下げとなる事例が全国的に発生しており問題となっている.斑点米の原因となるカメムシを斑点米カメムシ類と呼び,その多くが籾殻を貫通して中の玄米部分を吸汁することができ,吸汁跡に細菌あるいは糸状菌が二次的に感染することで斑点米が発生すると考えられている.

コーヒーの免疫調節活性を評価する  /  後藤 真生

Page. 598 - 600 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
我が国では花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患患者数は増加し続けており,国民の36%が何らかのアレルギー様症状を自覚しているといわれている.アレルギーは,アレルゲン特異的なT細胞がアレルゲンの刺激によってTh2細胞に分化してインターロイキン4(IL-4)を産生し,B細胞にIgE抗体の産生を誘導して成立する.マスト細胞上に結合したアレルゲン特異的IgEに,再度体内に侵入したアレルゲンが結合すると,マスト細胞はヒスタミンなどのケミカルメディエーターを放出することで,近接する組織での血流量や血管透過性を亢進させ,即時型アレルギー症状が惹起される.この機序についてはほぼ証明されているが,アレルギーのそもそもの罹患原因については未だ未解明である.

解説

ゼブラフィッシュ嗅覚系の神経行動学  /  小出 哲也, 吉原 良浩

Page. 601 - 609 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
動物は,外界からの様々な刺激を感覚器官で受容し,脳内で情報処理を行なうことにより,環境変化に応じた適切な行動をとることができる.中でも嗅覚は,食物の探索,危険からの回避,生殖活動といった生命を維持するために必要な本能的行動を制御する重要な感覚である.ここでは,匂いの受容から様々な嗅覚行動の発現へと至る神経回路の仕組みについて,モデル脊椎動物ゼブラフィッシュを用いた神経行動学的研究の現状を紹介する.

高齢者が誤嚥しにくい介護食の物性  /  熊谷 仁, 谷米(長谷川) 温子, 田代 晃子, 熊谷 日登美

Page. 610 - 619 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
近年,社会の高齢化に伴い,嚥下機能が低下した高齢者が増加している.食物が食道から胃ではなく,気管から肺へ到達することを誤嚥という.高齢者が誤嚥する大きな理由は,食物が咽頭部を通過する際のタイミングがとれなくなることにあるため,水やお茶などの低粘性の食物は誤嚥しやすい.誤嚥の危険性を低下させるためゲル化剤や増粘剤を添加した様々な嚥下困難者用の介護食が開発されているが,介護食として適切な物性指標については不明な点が多い.ここでは,超音波による咽頭部での食塊の流速測定結果を踏まえて,高齢者にとって誤嚥しにくい食物の物性とは何かについて議論する.

アレルギー性炎症誘導機構の解明と臨床への展開  /  中島 裕史

Page. 620 - 623 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
気管支喘息の本態であるアレルギー性気道炎症は,T細胞,B細胞,好酸球,肥満細胞,好塩基球,樹状細胞など炎症局所へ浸潤した血球系細胞と,血管内皮細胞,気道上皮細胞,線維芽細胞など組織構築細胞との複雑な相互作用により形成される.喘息モデルマウスを用いた研究によりTh2細胞が,アレルギー性気道炎症の惹起に,またTh17細胞が重症喘息の病態に関与していることが示されている.さらに,組織構築細胞の産生するサイトカインが直接あるいはT細胞を介してアレルギー性炎症の誘導に重要な役割を果たしていることも明らかとなった.これらの知見をもとに,臨床応用に結びつくことが期待される成果も得られつつある.

イネも夏バテをする?  /  山川 博幹, 羽方 誠

Page. 624 - 629 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
近年の温暖化によって,米の胚乳部分が白濁した乳白米が多発し,全国的に米品質の低下が問題となっている.乳白米は胚乳へのデンプンの蓄積が阻害されて生じると考えられるが,イネゲノム情報を活用した解析から,胚乳デンプンの蓄積が阻害される生理メカニズムが遺伝子レベルで明らかとなりつつある.

セミナー室

合成小分子蛍光プローブの精密分子設計による in vivo 微小がんイメージング  /  浦野 泰照

Page. 630 - 638 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
生きている状態の細胞は,様々な生理活性物質や情報伝達物質の生成・移動・消去などを通じて,多様な細胞機能を発揮し,生きている状態を維持している.すなわち,生命現象の解析や病態要因の解明などにおいて,「生きている状態の生物試料」における種々の生理活性物質の動態を,リアルタイムに観測することはきわめて重要である.しかし,一般にほとんどの生理活性物質は無色であるため,光学顕微鏡でただ観察してもその動きを知ることはできない.そこで近年,観測対象分子を高感度に可視化する蛍光プローブを用いて,蛍光顕微鏡下で生細胞応答をライブイメージングする技法が広く汎用されている.

硝化を担う微生物の多様性と機能  /  森本 晶, 星野(高田) 裕子, 早津 雅仁

Page. 639 - 644 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
硝化は,窒素固定,脱窒とともに生物圏における窒素循環系を構成する主要な微生物反応である.このプロセスは,アンモニアが亜硝酸を経て硝酸に酸化される過程からなり,多種多様な微生物が関与していることが,最近の研究で明らかになってきた(1)(図1).硝化により生成した硝酸イオンは地下水の窒素汚染をひき起こす.また,硝化の過程で発生する一酸化二窒素(N2O,亜酸化窒素)は,炭酸ガスの298倍の温室効果を有し,さらにオゾン層を破壊する作用をもつ(2).このように,硝化は地球や地域の環境問題に密接に関係していることから,近年,微生物研究のみならず環境科学において注目され,多角的に研究が進められている.今回は,主に土壌生態系において硝化に関与する微生物の最新の知見や技術を概説する.

「化学と生物」文書館

DNAの高次構造と生物活性  /  駒野 徹

Page. 645 - 649 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
1950年代に入り分子生物学が誕生すると,DNAの重要性から,DNAの複製機構や遺伝情報の発現機構に関心が集まった.初期の頃は研究材料としてバクテリオファージや大腸菌が多く扱われた.小形ファージφΧ174もその中の1つであった.φΧ174 DNA(+鎖)は1本鎖環状のDNAである.当時世界が注視していたことは,どうして1本鎖の+鎖DNAから子供の+鎖DNAが複製されてくるかということであった.筆者は幸運にも,感染初期に合成される+鎖の相補性鎖(-鎖)が鋳型となり,Watson-Crickタイプの塩基対形成の機構で+鎖のみが合成されることを明らかにすることができた(1, 2).DNA構造(塩基配列),なかんずくφΧ174 DNAの構造は1977年にF. Sangerらによって明らかにされるまで待たなければならなかった

農芸化学@HighSchool

市街化が進んでいる水田地域でアカミミガメはどのように過ごしているのか  /  原 悠歌, 井上 智香子

Page. 650 - 651 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
本研究は,日本農芸化学会2011年度(平成23年度)大会(開催地 京都)での「ジュニア農芸化学会」において発表予定であったが,残念ながら東日本大震災によって大会が中止となった.日本農芸化学会和文誌編集委員会によって本研究を優れたものと選定し,掲載することとなった.市街化が進む水田地域における外来種ミシシッピアカミミガメの生態を明らかにしたもので,在来種への圧迫や食物連鎖のバランスなど生態系に与える影響を考察する上で重要な知見を得ている.

海外だより

TIL (Tsukuba-INRA Joint Lab) の活動フランス・ボルドーから  /  森 健太郎

Page. 652 - 657 (published date : 2011年9月1日)
概要原稿
リファレンス
私は2009年1月より,フランスはボルドーに設置された筑波大学遺伝子実験センターと仏国立農業研究所(INRA)ボルドー研究センターとの国際ジョイントラボ(TIL)に常駐し,モデル植物トマトを用いた国際共同研究の一端を担っています.本ジョイントラボプロジェクトでは,両機関が備えるトマト研究資源を活用しながら,教員,研究員,学生の人材交流によって研究・教育活動を進めています.もともと私は2007年に渡仏し,INRAボルドーにあるブドウのゲノム機能科学研究室でポスドクをしていましたが,ジョイントラボの開設を機に研究テーマを変え,海外での研究留学から一転,日仏のラボの間で自らの研究を進めつつ,共同研究のコーディネートや学生教育にも携わる立場へと変わりました.今回は,これまでの「海外だより」欄ではあまり取り上げられることのなかった,日本の大学と海外の研究機関との提携によるジョイントラボの活動を紹介したいと思います.